剣の作法序曲
フランシスカとミリアムを乗せた馬車は、逆回りしていた。ミリアムに関して言えば、無理やり乗り込んだといって差し支えない。
向かうはナイム領。最終的には、ディーク領から国王の元に向かう予定である。ほとんどそれしかルートがない。
揺れる馬車の中、二人の聖女は作戦会議をしていた。
「もしもデスレイジの洞穴とやらが、国王に知られていたら?」
ミリアムが言った。
「終わりですね。民を盾にされては我々は手出しが出来ません」
「なるほど。他に情報は?」
「情報……一つあります。イグドラシルの水晶で見えた未来です」
「詳しく」
「ナイムが血濡れで国王の前に倒れていたと聞きました」
「ふむ」
ミリアムは手を組んだ。いかにも厄介、というような表情。
「ナイムが落ちるのであれば、そもそも勝ち目などありません。水晶は信頼出来るのですか?予測値でしょう?」
「そうですが……何分、聖女の道具です。当たる可能性はあるのでは」
「では、フランシスカ。貴女の役目は?」
「その傷ついたナイムを治療することでしょうね」
「その通り。貴女に落ちてもらっては困ります。さて……ディークの能力がありましたね。四天王の指輪。それをつけるのは?」
「貴女と、ナイム。そして私の部下のホウオウ、最後にマリアンヌが妥当ではないかと」
「何故、マリアンヌが?他の三名は良しとしましょう。マリアンヌはテレパスを飛ばせるだけでは?」
「状況を正確に共有するためです。僅かな隙も許されない。マリアンヌはいわば、司令塔です。彼女以外に、戦闘中に的確な指示が出せる人物はいない」
「あの弱虫がそこまで出来るかしら」
「弱虫?撤回をお願いします」
「お断りします」
「……」
黙り込むミリアムとフランシスカ。ナイムも苦労するのも頷けると、フランシスカは思った。
「まあ、いいでしょう。指輪がどれほどのものか、気になりますが……ホウオウというのは、あなたの部下でしたね?ナイムより強いのですか?」
「ナイムには及びませんが……」
悔しそうにフランシスカは呟いた。
別所、ナイム領にて。戦力が緩やかにディーク領に移動していた。
荒れた荒野で、ホウオウとナイムが対峙している。
二人とも、ディークの指輪をつけている。
ナイムが剣に手を当てながら喋る。真剣である。
「いい?ホウオウちゃん。素で戦えば、貴女は私には敵わない。ただ、適正なのか、ディークの指輪があれば、貴女は私をも上回るかもしれない。フランシスカ達が戻ってくるまでに、実力身に付けな。気をコントロールしろ」
「指南願う」
「全部弾けよ。いくぞ」
ナイムが合図とともに、ホウオウに接近した。揺れるホウオウの装束。
速すぎるナイムの剣戟。イグドラシルは追いきれない。ディークがやっと。オルエンには見えている。
轟く剣の打ち音。ホウオウは赤い眼で全て弾いていた。四天王の指輪が、キラキラと光っている。
「全然余裕だな」
ホウオウが言った。
「あっそ。まだ低級だよ。次、中級」
再び轟く剣同士の音。見えない。追いきれない。ホウオウとナイム以外には。
どっちが優勢なのか、わからない。
ホウオウは評価していた。これならまだ弾ける。
「上手い上手い。じゃあ、最後上級ね」
ナイムはにこやかに言うと。
消えた。もとい、消えるほどの速さで動いた。
眼で追わないホウオウ。元より眼で追える相手ではない。気配で追っている。
左、右、中央、左、斜め、目の前。
気をコントロールし、ナイムの剣戟を弾いていた。
剣戟が止まる。
「お見事」
ナイムは剣を鞘にしまった。ホウオウも。
「それだけの動きが出来れば、国王に立ち向かえるよ。ホウオウちゃん、一番戦力。頑張りな」
「負けたくない」
ホウオウは独り言かのように呟いた。
「なんで?」
「国王はフランシスカをいじめたから。私は、居場所なんてなかったし、全部フランシスカの作ってくれた幸せの上に生きてきた。地獄の日々から考えれば、今でもそう思う。だから自分の為、フランシスカの為、あの国王に勝ちたい。フランシスカをレストランに連れて行ってあげたいんだ。追放なんてあんまりだ。少しでいい。たったの少しでいいから、フランシスカの役に立ちたい。それが私の生きがいだし、恩義だから」
「そうかい」
ナイムは満足気に微笑んだ。ホウオウを気に入っている。
次の瞬間、ホウオウの黒い装束の一部が、スパッと切れた。裾のあたりである。
「超級。短い間に修行しな」
ナイムが切ったのだ。誰も追うことは出来なかった。ホウオウでさえ。




