ここに六つの聖女を立て
「さて、私は住処に戻らせていただきますが、何か言いたいことがありますか?」
ミリアムの冷たい声。馬車内に響く。
「あります。貴女は、何故国王と戦わないのですか?」
「勝てないから」
「だから追放されても構わないと?」
「不愉快です。追放されて喜ぶものですか」
「では……」
「受け入れざるを得ません。勝てないのですから。六聖女が集まったとしても、無理でしょう」
「無理なら諦めてもいいのですか?民は今も苦しんでいる。あの国王の内政に。私達は聖女ではないのですか?戦わなければ何も起こらない。それで満足なのですか?」
「うるさいな。勝算とか、考えないのですか?倒す?どうやって?その解答が無いのでしょう?」
「見込みはあります」
「どのように?」
「聖女の力です。聖女がそれぞれ、力を持っています。それを持ってすれば、勝てます」
「ほう。では、聖女の能力を全部教えてもらいましょうか。本当に勝てるのかどうか」
「勿論です」
フランシスカの即断。芽はある。説得の芽が。
彼女は、聖女達の能力を、順番に告げていった。
ナイムの、認識した相手を殺せる力。
ディークの、四つの人物に力を与える四天王の指輪。
マリアンヌの、遠距離にテレパスを飛ばす力。
イグドラシルの、未来を限りなく正解に見る力。
フランシスカの、傷ついた者を一瞬で治す力。
ミリアムは、注意深げにそれを聞いていた。一番反応したのが、ディークの力。
「四天王の指輪?」
ミリアムは、多少真剣な表情になっていた。何かが変わっている。
「はい。ディークの祈りの力です」
「詳しく。祈りを送り届けることが出来るということですか?」
「そうです。そして、付けた者は力が増幅する」
「……」
ミリアムは顎に手をやった。美しい紫の髪が揺れる。
「そんなに気になりますか?」
「気になりますとも。交換です。私の能力を教えましょう。私は、祈りの力で魔法のような出来事を繰り出すことが出来ます。しかし、その際に私自身の祈りの力を使います。つまり」
「ディークが魔力を供給してくれれば、能力を使い放題だと?」
「呑み込みが早い。その通り。それなら……少し、勝ち目があるかもしれません。私が永久的に魔法を打ち続け、ナイムの能力で殺す」
「ナイムは、国王には能力が通用しないと言っていました」
「ほう」
「ナイムの力に関して言えば、国王には通らないようです」
「なんらかの能力でしょうね」
「ミリアム様」
フランシスカは目を細めて言った。そして、隣に座っているミリアムに、頭を下げた。
「この通りです。手伝ってください。私たちが、国王を倒すのを」
「……手伝える要素が、一つあるとすれば」
「それは?」
「あなたの勇気です。まるでノーガード。私に殺されるかもしれないのに、貴女は勇気を出したようです。そんな人物を見捨てるわけにはいきませんね。わかりました……」
ミリアムは華麗に髪をかき上げた。
「第一聖女ミリアム。フランシスカに力を貸しましょう」
「ありがとうございます」
フランシスカは礼を言った。結果、彼女の不戦の策が功を成したのだ。
「それで、私はどうすればいいのです?」
「まずは皆で合流すべきです。既に、ナイム達は国王の所に攻め込む準備をしています」
「説得できる前提ですか。しかし、国に攻め込むにしても、民は悪者ではない。国王は、遠慮なく民達を盾にしてくるでしょう。勝算はあるのですか?」
「デスレイジの洞穴を通っていけば、国の内部に侵入することが出来ます。秘密の洞穴です。知っているのは……ホウオウくらいでしょうか」
「私も知りませんね。なるほど、裏ルート……そこから侵入。その後は?国王は魔力で人を脅かすことが出来ます。あの狂気に触れれば、正気を保ってはいられない。私なら耐えられますが……他の者たちなら、一瞬で戦闘不能になるでしょう。その対策は?」
「気に強い人物がいます。ナイム、そしてイグドラシルの部下のオルエン。そして私と、私の大切なホウオウという戦士です」
「私を含めて、合計で五人ですか。5対1……いけるかもしれませんが。残りの聖女は何をするのです?」
「イグドラシルの水晶玉で、戦況を予測します。そして、マリアンヌがそれを伝達。ディークが貴女に魔力を送り続け、ナイムとオルエンとホウオウが、物理的に剣で殺す」
「……現実味を帯びてきましたね。その場合、私は防御に専念しましょう。魔力の柱で、仲間を守り続けます。ナイムを守らなければならないというのが少々不愉快ですが、止むを得ないでしょう」
「ありがとうございます」
「お礼は結構です。しかし、貴女の役目は?」
「前に出て、治療すべき人物を治療し続けます。ナイムとホウオウとオルエンが落ちたら終わり。最優先はナイムです。ホウオウは大切ですが、私情は捨てます」
「貴女、国王の攻撃を防御する策は?」
「……ありません」
フランシスカは少し悔しそうに俯いた。しかしミリアムがそれを取っ払う。
「わかりました。フランシスカ、貴女を守りましょう。貴女が生きていれば、回復がし放題なのでしょう?それなら十分。要は貴女が落ちなければいい。自覚が無いかもしれませんが、貴女は優秀です」
「ありがとうございます、ミリアム様」
「ミリアムで構いません。こちらもフランシスカと呼んでいますし」
「……ミリアム。感謝します」
「感謝するのは」
ミリアムは魅力的な表情で首を傾げた。
「勝ってから」




