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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第四章 第三聖女への誤算

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お隣少しよろしいかしら?

 場は静まり返った。ナイムのミリアムへの評価が、異常に高かったからである。

 ナイム曰く、ミリアムとはほぼ互角。ナイムは語る。


「いやさ、殺人鬼ではないんだよ。赤い牙とも敵対しているし。ただ、領地を譲ってあげてばかりもいられないわけ。ミリアム領は西にあって、私の領地を通らないと、物資が補給できない。だから、何度も領地を巡って小競り合いがあったんだよね」


「それで、戦いに?」


 フランシスカが促した。


「そうそう。あいつね、魔法が使えるんだよ。火の玉とか。あり得ないでしょ?私が戦った時なんか、氷の柱を私に飛ばしまくっていたよ。あれは殺す気だったね。全部弾いたけど。雷だって使う。魔力が高まったからか、たまに天候が荒れてたよ」


「大魔法使い……」


「そういうこと。まあ、逆に言えば、味方につければそれなりに頼もしくはあるかな」


「何か、仲間にする手がかりはありませんか?」


「うーん……土地くらいしか思いつかない。何かを譲渡するとか。ただアイツ、自分は絶対正しいって信じてる。その上で私と敵対してたんだから、条件飲むかなぁ」


「自分が正しい、ですか」


 フランシスカは長考の構えを見せた。自分以外は全て敵。そういう判断を下していても、おかしくないな、と。

 なら、どうやって味方につけるのか?

 それは……。


「武装を捨てるというのは?」


 フランシスカが人差し指を上げながら言った。


「丸腰になれってこと?」


「そうです。無抵抗、不戦の構えの相手を殺すことを、正しいことだと信じるでしょうか?そうは思えない。そこまでの馬鹿なら、仲間になってもらう価値がありません」


「あ、いいね。その考え方。確かに、アイツが馬鹿だったらそもそも戦力にならないわけだ」


「そうです」


「まあ、そうだとしても。誰がその役やるの?下手すりゃ死ぬよ?」


「私がやります」


 フランシスカは即答した。ホウオウに僅かな気の動き。


「死にたいの?」


「私は生きます」


「根拠ちょうだい」


「根拠を提示すれば、認めてもらえてるのですか?」


「うん。納得出来る根拠ならね。そうじゃないと、見殺しにするようなもんだし」


「ふふ。根拠はですね……」


 フランシスカは笑顔で首を傾げた。


「ありません。そんなものは。それが根拠です」


「……は?」


「人の命がいつ散るか。そんなことはわかりません。だから、人は頑張って生きる。明日死ぬかもしれない。それでも生きる。何が起きるかなんて、やってみなければわからない。生も死も、根拠のないものです。確かに、ミリアムとの交渉で私は死ぬかもしれません。けれど、その死に方なら、私は納得して死ねると思うのです。私が、私の死に対して、満足している。交渉で死ぬなら本望。つまり、これは願いです。あなたにお願いしているのです、ナイム」


「……」


 ナイムは短い沈黙の後、フッと笑った。そして言った。


「護衛、何人必要?いつ出発する?」



 結局、フランシスカがナイムを説得し、フランシスカがミリアム領に赴く事になった。謎の魔法使い聖女ミリアムの元へ。

 ナイムは、護衛をつけると言ってくれた。精鋭である。しかし、フランシスカはそれを固辞した。この交渉、1でも戦力をつければ、意味を成さない。

 マリアンヌ、イグドラシル、ディークは反対していた。特にマリアンヌは、激しく反対した。フランシスカの性格に惹かれていたからである。国を変えようとする姿勢に。

 だが、それらの意見もフランシスカが一蹴。ホウオウは逆らわない。フランシスカの意向を聞き遂げた。


 結果として、なんと一台の馬車、それも乗っているのは御者とフランシスカだけという、まるでノーガードの恰好で、ミリアム領に経つことになった。加えて、フランシスカには戦闘能力などない。


「生きて帰れ」


 ディークが、出発しようとするフランシスカに声をかけた。気まずそうな顔である。


「必ず。私は生きます」


 馬車は出発した。残りの戦力たちを残して。

 一番強いナイムが大声を上げた。


「フランシスカが戻るまで、国に攻め入る支度をするぞ!!」



 フランシスカの乗る馬車にて。ミリアム領に突入していた。

 異常に、緑が多い。これだけの緑が広がっているのであれば、ナイム領に攻め込む必要もないような、という感想をフランシスカは抱いた。しかし、きっと事情があるのだろう。

 馬車の速度が遅い。もう少し、早くならないものか。


「御者殿、もう少し速度を上げてください。このままでは日が暮れてしまう」


「かしこまりました」


 ミリアムが言った。『ミリアムが言った』。


「え?」


 脊髄反射で声を出したフランシスカ。

 フランシスカは馬車の椅子に座っている。その隣に、女性が座っている。

 紫色の長髪。魔法のような紫色の瞳。綺麗なドレス。


「ごきげんよう」


 女性は言った。しかし、流石のフランシスカも返事が出来ない。

 どこから来た?幻術?


「挨拶をしているのですが?」


「フランシスカと申します」


「ほう」


 女性、すなわちミリアムが驚いた顔をした。


「なかなか頭の回転の速いお方のようで。失礼しました。私は、ミリアムと申します。元聖女です。貴女が新しく追放されたフランシスカ様ですか」


「ミリ、アム……」


「何をしに来たのですか?」


 ミリアムは淡々と喋る。

 フランシスカの直感。この状況、おそらく今後に影響する。もし、フランシスカを殺そうと思ったら、有無をいわさず殺せている。

 試されている。それしかない。

 ならば、説得あるのみ。


「ミリアム様。あなたを説得に来たのです」


「説得とは?手短にお願いします」


「国王を殺します」


「どこの?」


「私達を追放した、忌まわしき国王です」


「……先ほどまで、睡眠でも取られていたのですか?」


 意味は、寝ぼけているのですか、である。馬鹿にされている。

 だが、フランシスカは畳みかける。


「起きておりました。ミリアム様、状況変化をご存じないかもしれませんが、既に五つの聖女は団結しているのです。六人の聖女で、国王を殺す。貴女が協力してくれれば、叶うかもしれないのです」


 フランシスカの臆さない解答。ミリアムの方が驚いたくらいだ。


「……そのようなことが起こっていたとは。五つの聖女ということは、もしや、ナイムも?」


「ナイムも味方です」


「そうですか。それなら、私は手を貸しません。自分達だけで、国王と戦ってください」


 ミリアムが冷めた表情で言った。やはり、ナイムと仲が悪い。

 馬車が揺れている。ミリアムを乗せているのに、ミリアムの住処に向かっているという、異常事態。


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