無理なものは無理
ディークとフランシスカの談合は続いた。ディークはフランシスカと協定を組む代わりに、いくつかの条件を出した。ディークに対して反乱を起こさない事。当たり前であるが。フランシスカはそれをすんなりと承諾した。
そして、フランシスカに対して、戦力を見せるように告げた。これが最後である。
フランシスカ隊の一番強い人間は、ホウオウである。ホウオウも丁度、その場に居合わせていた。
ホウオウが語る。
「気でも出してみればいいのか?」
ホウオウの気配。それに対して、ディーク達が気づいた。
「ああ……あの謎の気配は、君だったのか」
そう言うのはイルゴール。ディーク、イルゴール、ヴェルゼは間接的にホウオウと会っている。三人合わせても、ホウオウの実力が上回るかもしれない。
話は円滑に進んだ。まずは、第二聖女ナイムとの合流。命が危ないのだから当然である。
加えて、アクドラの状況。北はイグドラシル、東にマリアンヌとフランシスカ、中央にディーク。この布陣なら、ナイム領に向かってもなんら問題はない。敵がいないのだから。
ナイム領に行く、選抜部隊の選出。これには、全勢力を結集すべきだという結論が出た。ナイム領の隣に、第一聖女ミリアム領があるからである。ナイムをもってしても、苦戦するという、謎の聖女ミリアム。フランシスカ達の知らない戦力。
全ての戦力を、ナイムと合流すること、そしてミリアムを説得することに充てられることになった。
この際、マリアンヌの能力を向上させる紫水晶を、各聖女が預かることになった。これで、一方的だが、マリアンヌからテレパスが飛ばせる。
加えて、ディークの能力の四天王の指輪。付ける者の能力を向上させる指輪。全部で四つあるが、一つをホウオウに付けることになった。ディークは裏切られた時の保険をかけ、二つをイルゴールとヴェルゼに。ただ、それではイグドラシルが納得しない。よって、イグドラシル配下のオルエンに一つ。これで、四つの指輪は使命を果たす。
四天王の指輪は強い。強者のホウオウとオルエンは、力がみなぎってくるのを感じていた。上回るかもしれない。ナイムをも。
出撃の準備は整っていた。行く先は一つ。ナイム領。
「行きましょう」
フランシスカが、低く響く声で言った。負けるか。勝つか。アクドラと、元の国の平和を、取り戻せるか?
出撃したフランシスカ達。当然、ナイムに真っ先に使者を送った。フランシスカとディークの会談での出来事、そして、これからナイム領に向かうこと。オルエンが役目を勝って出ようとしたが、イグドラシルが止めた。やはり、頼れる配下なのである。
ナイム領に出撃している最中、おかしな出来事は無かった。敵はいない。人はいたが、いずれもディーク領の人間であった。
そして、ナイム領に入る。辺りの風景は、殺風景なものだった。言うなれば荒地。それ以外でも何者でもない。この土地では農作も苦労するだろうと、フランシスカは思った。
ディークは配下に指示を出している。
「皆の者、油断するなよ。四聖女が集結したとはいえ、ナイム領は未知の領域だ」
「ハッ」
前へ。ひたすら、四勢力が前進する。ナイムからの返事を待ちながら。
懸念点はイグドラシルの水晶玉。未来ではナイムが死んでいる。国王の前で。
そのナイムと合流するのが、最優先。
だが、事は以外にも簡単に運んだ。ホウオウの気配を察知したナイムが、向こうから訪れてきたのである。
そして、飄々と。
「ん、やっほー、ホウオウちゃん。他も出揃ってるのか。使者から話を聞いたよ。本気で国王に勝つつもりなの?」
ニッコニコ笑顔のナイム。謎の殺気すらある。
返答するのはフランシスカ。
「勝ちます」
「どうやって?」
「依存です」
「依存?」
ナイムが首を傾げた。
「ナイム、貴女に勝ってもらうしかないのです。ホウオウと貴女が協力すれば、勝てる可能性はあります」
「無理」
即答。
「無理かはわかりません。私達には聖女の能力があります。それを使えば……」
「だから、無理なんだって。アイツ、私たちの能力が効かないんだから」
「能力が効かない?」
フランシスカは眉をひそめた。
「そう。だって、私の、認識した相手を殺す能力ですら、効果が無いんだもん。もうとっくの昔に試しているよ。原理はわからない。だけどあのクソ国王は殺せない」
「物理的な勝ち目は?」
「……」
ナイムは珍しく黙った。何やら、計算しているようである。
長考の末。
「うーん……ホウオウちゃんがいることを含めても、無理だね。剣術でも勝ち目がない。今、想像してみたけど。いくつかの戦闘を。勝てなかった。無理」
ナイムは淡々と言う。ディークが割って入る。
「国王に能力が効かないのはわかった。だが、私の四天王の指輪はどうだ?これは、国王を対象にした能力ではない。指輪をつけている人物の能力を、私の祈りで増強する力だ。それでも、勝てないか?」
「ふーん……ちょっとその指輪、借りれるの?」
「無論だ。イルゴール、指輪をナイムに渡せ」
「ハッ」
指輪が、イルゴールの手を離れ、ナイムの元へ。
ナイムが、それを身に着けた。そして……。
とてつもない殺気が辺りを包んだ。ナイムの気。
「馬鹿じゃねぇのかお前」
言ったのはナイム。ピリピリした空気に、ほぼ全員硬直している。
構えを取ったのは、フランシスカ、ホウオウ、オルエン、マリアンヌ。この四名だけである。
「なんで?なんで敵かもしれないやつに能力上がる道具渡してるわけ?日和見?そんなうつけが国王に勝てるわけねぇだろ。ほら、勝ってみろよ。かかってこいよ」
ナイムの冷たい眼がフランシスカ達を見ている。
ホウオウは剣に手を当てていた。
それを制止したのが、フランシスカ。
「ホウオウ、構いません。ナイムが我々を殺すと言うのであればそれまで」
凛として言い切った。その言葉を聞いた、ナイムの気が一瞬で収まる。
「ふーん……フランシスカ、なかなか胆が据わっているね」
「それはどうも」
「命が惜しくないってこと?」
「そもそも貴女が敵ならとっくに終わりです」
「ふーん」
好戦的な表情のナイム。いいじゃん。そう言わんばかりに。
「いいね、フランシスカ。わかった、私の力を貸してあげる。これで……五人の聖女が集結したことになるってこと?」
「そうなりますね」
「じゃあミリアム突破しないとダメだな」
「ミリアムを仲間に引き入れるのは、貴女から見て、不可能ですか?」
「かなり厳しい。ミリアムとは、何回かやらかしてるからね。私の言葉には耳を貸さないと思うよ」
「ふむ……別の者が説得するというのは?」
「いけるかもしれないけど、通用しなかったら即死」
「即死?」
「だってアイツ滅茶苦茶強いんだもん」




