読み切れはしない
「面白い。では、どのようにあの国王と相対するつもりか?ヤツの力は尋常ではない。聖女としての力に自信があるとでも?」
「それは言えない事です」
フランシスカはここで情報を伏せた。彼女の聖魔の石は、人を治療する魔法の力だが、個の力として見ると、全然強くは無い。他人頼りである。それを知られては良くない。
「まあ、隠すだろうな。ならば、私も言わない。そうだろう?聖女の力を抜きに、お前たちは国王に挑めるだけの戦力があるのか?」
「片鱗はあります。優秀な戦士がいる。しかし、言葉を選ばず言えば、勝ち目はない。一人では」
「やはり無いではないか。逆らっても殺されるだけだ。私とて、国王を殺そうと思ったことはある」
「一人では勝てない、です。私はこういう未来を思い描いています。アクドラの六つの聖女を立て、国王を殺すという未来を」
「……馬鹿馬鹿しい。新参者のお前は知らないかもしれないが、聖女同士は争っているのだ。領地をめぐり、名誉をめぐり。そう簡単に聖女が団結するはずはない」
「私は、マリアンヌと協力関係を結びました。ディーク、貴女もイグドラシルと協力しているではありませんか。二人の聖女が協力している。それを、六つに拡大させるのです」
「確かに、一理はある。イグドラシルとは協定を結んでいる。だが、無理だ。六つは無理。ミリアムは得体がしれないし、ナイムも承諾するか怪しいものだ」
「負けていいのですか?」
「何に?」
「人生です」
フランシスカの深淵を覗く目が、輝いている。
「アクドラで一生暮らし、あの国王に敗北するのですか?それで、満足ですか?死に切れますか?残された民は?あの国の国民は私達を待っているはず」
「うるさい!そんなことは知っている。だが、どうしようも無いんだ。勝ち目がないのだから。ナイムですら勝てないのだ」
言ってから、ディークがしまったという表情をした。
「ナイムが国王と戦ったのですか?」
「伏せる」
「伏せる意味は?」
「……しつこいな。無意味な質問だ」
顔を背けるディーク。そこに思いがけず、イグドラシルが入った。
「ディーク、話しておくべきでしょう。あなたの能力は伏せておいて、私の能力だけでも言っておいたほうがいいかと。ほぼ確定の未来ですからね」
「……お前本人の意志なら、いいだろう。わかった。フランシスカよ、このイグドラシルには、未来を予測する水晶玉の能力がある。そこに映っていたのだ。ナイムが国王の前で、血濡れで倒れている姿が」
「場所は?」
フランシスカは頭の回転が速い。一瞬で情報を飲み込んでいた。嘘だった場合、嘘でなかった場合も仮定して。
「場所?」
「国王とナイムが映っているのはわかりました。場所の問題です。どこで血濡れだったのですか?」
「それは……」
口ごもるディーク。そこまで察していなかったのだ。イグドラシルも。
「わからないのですか?」
「……そうだな」
「……良くない!!」
フランシスカは僅かな長考のあと、大声を出した。
「ナイムが殺されるということは、国王は我々を殺しに来ているのですよ?どうして、ナイムを助ける案を考えないのですか!?」
フランシスカの正論。ディークは返事に詰まる。協定を組んでいるから動きはわかる、というのは言い分である。しかし話せない。情報が、フランシスカに吸い取られていくようである。
だが、言い訳が思いつかない。ディークは正直に話すことにした。
「フランシスカ、問題は無い。我々はナイムとも協定を結んでいる。ナイムは自分の領地で、ミリアムの監視をしている。国王に喧嘩など吹っ掛けていない」
「ナイムとの協定?」
「そうだ」
「では、三人の聖女が協力しているではありませんか。そこに、我々も加われば、五人の聖女。パワーバランスを考えれば、残りの聖女、ミリアムも説得することが出来るのでは?」
「それは、まあ……」
ディークは悩んでいる。
フランシスカは考える。ここが勝負所。ここさえ切り抜ければ、あの憎き国王を倒し、平和な国を取り戻すチャンスはある。
カード。全放出。
「ディーク、よく聞いてください。私とマリアンヌの能力を全て話します。その代わり、もし、もしもでいいです。我々の覚悟が伝われば、私達と協定を結んでください。国王を倒すための協定を」
「……」
「返事を!!」
「……よかろう。話せ」
「まず、マリアンヌの能力は、遠距離通信です。遠くの相手に言葉を投げかけることが出来る。大体、五十メートルくらいの距離です。紫の水晶を持っていれば、もっと距離は長くなります。そして、私の能力。傷ついた者を、一瞬で回復させることが出来ます。どんなに重症でも」
「ふむ……」
ディークは興味深げに頷いた。確かに、弱い能力ではなさそうだ。特に、フランシスカの能力。傷ついた手練れを回復させればいいのだから、ある意味、無限機関である。
さらに考えるディーク。四天王の指輪。それをナイムに渡せば、もしかしたら勝ち目があるかもしれない。国王に。付ける者の能力を向上させる指輪。
勝てるか?もしかしたら。もしかしたら……。
「しかし……」
だが行き詰まる。やはり恐怖が拭えない。
「貴女は諦めようとしている」
フランシスカが言った。言い返せないディーク。
「論理的に考えてください。イグドラシルの能力で、ナイムが倒れる未来は確定。そうであれば、ナイムは一人きりで戦うことになります。ナイムを救い、我々も国王を倒せる。その道を通るしかないのでは?」
「よかろう」
ディークが即答した。イグドラシルが目を見開く。
「ディーク」
声をかけるイグドラシル。周りの者も、ディークに意見したい様子だ。
「構わぬ。ナイムが死ぬ未来は変えられぬ。私は諦めるのは嫌いだ。イグドラシル、お前の能力を信頼してのことだ。水晶の未来が本物であれば、ここで戦わなければ、ナイムを見殺しにする裏切り者。フランシスカよ、お前に協力しよう。ただし、条件はつけさせてもらう。いいな?」
「はい」
フランシスカの構想が、現実化していく。
しかし、人の未来は読めない。予測することは出来る。それでも、不確かなものなのだ。
愛も。未来も。死も。