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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第四章 第三聖女への誤算

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アクドラ対談

 フランシスカはディークに使者を送っていた。これから、あなたの領地に参ります、と。その手紙に、フランシスカは正直に書いた。マリアンヌと協定を結んでいることを。これが功を奏す。


 手紙を受け取ったディークは、考え込んでいた。


「ふむ……向こうから来るか。それに、正直にマリアンヌと協定を組んでいることを話している。嘘つきではないが……」


 ディークにしてみれば、イグドラシルとナイムが味方とはいえ、フランシスカとマリアンヌの能力は不明。それを考えれば、ピリピリするのも無理はない。


「イルゴール、ヴェルゼ。戦いの準備をしろ。特に、ヴェルゼ。お前は汚名を返上せよ」


「わかってますよ」


 こちらも苛立っているヴェルゼ。イグドラシル配下のオルエンに、圧倒的敗北をしたためである。イルゴールに苛立ちは無い。彼は、ディークの参謀とも言える。冷静である。

 その場には、イグドラシルも居合わせていた。


「私もお手伝いします、ディーク。貴女一人で、聖女二人に相対するのは、危険です」


「それは助かる。イグドラシル、私の補佐に回れ。会談は私が行う」


 あくまで強気の姿勢のディーク。弱さを見せればつけこまれる。彼女はそう考えている。

 しかし、イグドラシルも譲らない。


「私も同席します。アクドラの今後を決める未来。参加させていただきますよ」


 したたか。そう言えるだろう。勢力争いに介入する姿勢。ディークは飲むしかない。正当性があるからだ。


「……よかろう。変な真似はするなよ」


「勿論」


 ニッコリとイグドラシルは微笑んだ。何を考えているのか、怪しげである。


「フランシスカに返事を渡せ。対談しよう、と。その旨を伝えろ、使者よ」


「ハッ」


 ディーク配下の密偵は、フランシスカの元へ向かった。



 そして、手紙を受け取ったフランシスカは、手紙の内容をよく咀嚼し、ディークとの会談に臨むことになった。ただ、ディーク達と違うのは、マリアンヌは同席しないことである。フランシスカの案で、マリアンヌには周りの見張りを頼むことにしたのである。なにせ、マリアンヌはテレパスが使えるのだ。不穏な動きがあれば、すぐに察知出来る。

 聖女の能力としては、確かに弱いように見えるかもしれない。だが、このマリアンヌの能力、果てしなく使える能力なのだ。


「フランシスカ様、アクドラを頼みます」


 そう言ったのはマリアンヌ。対して、微笑むフランシスカ。お互いの性格の良さが、共鳴しあっている。


 会談の場所は、ディーク領内の村。大変良く作物が育つ土地で、とてものどかである。

 家は藁や木で作られており、緑が多い。まさに、辺境の村といった感じだ。

 村の者たちは、ディークの来訪、そしてフランシスカとの会談を知り、慌てて祝宴の準備をしていた。

 たくさんの良質な米、みずみずしい果物。本来、村の者たちのご馳走だったが、ディークが来るとなると、まったく話が違う。村人たちはディークのためならなんでもやる。それくらい、ディークの内政術は優秀だった。


 ディーク隊が村に到着。村人たちは、歓喜の表情で、ディーク達を出迎えた。

 悪くは無いな、といった表情のディーク。イグドラシルは、あまりの人気に驚いていた。


「この村でフランシスカ達を待つ。村の者!戦いになるかもしれぬ。下がっていろ」


「私共に出来ることは、何もないのでしょうか?何か、ディーク様の力に……」


「気持ちだけで十分だ。それに、この祝宴、感謝する。案ずることは無い。安全に見守っていればいいだけだ。さて、フランシスカはいつ来るか……」


 珍しく、村人たちに対しては笑顔のディーク。

 それが、彼女の素の姿。

 忌々しい国王が、ディークの性格を捻じ曲げたのだ。

 国王は、ディークの四天王の指輪の能力を、人任せの役立たずだと罵倒した。

 それでも、ディークは、内政において重要な人物に指輪を渡し、祈り、頭脳で貢献していた。ずっと、ずっと、祈っていた。

 だが、見捨てられた。使えない聖女。結果を出さない。彼女の心の棘は、取れないだろう。



 フランシスカ達は、マリアンヌ隊をやや後方に置きながら、ディークの指定した会談場所へと辿り着いた。妙に閑静な村だったので、少し拍子抜けした感じだ。

 フランシスカが先頭。後ろにシュクレとホウオウがついている。

 シュクレは忠告をした。


「フランシスカ殿、危なくなった時の引き際は、手筈通りにしたほうが良いかと。ホウオウ殿に前線を任せ、我々が先に逃げる。我々が残っていれば、ホウオウ殿の足手まといになる。ホウオウ殿なら、一人でも死なないはずです」


「わかっています」


 そう答えたフランシスカ。その言葉に含まれた、ホウオウへの絶対の信頼。


「行きましょう」


 フランシスカが歩みを進める。村人が多いな、と感じていた。


 村の中の、一番大きな屋敷の中。木と藁で作られた、テントにも似た建物に、フランシスカは入った。

 既に、建物の中には人が大勢いた。恐らく、ディークもいるのだろうと推察。

 しかし、臆さないフランシスカ。凛々しいままの表情。


「フランシスカ、参りました。ディーク殿は?」


「私だ」


 挙手をするディーク。軽く。

 横から、イグドラシルも口を出した。


「私はイグドラシルです。フランシスカ様、御機嫌よう」


 そのイグドラシルの言葉に、フランシスカとホウオウ、シュクレの背筋がピリッとした。

 聖女が二人。ある程度、予想はしていたが。

 立て直すフランシスカ。


「二人の聖女様が並んでいるのですね」


「マリアンヌはどうした?」


 問いかけるディーク。


「村の外です。何も、マリアンヌまで危険を冒す必要は無いでしょう。私一人で充分です」


「危険……我々が、凶行に及ぶかもしれない、ということか?」


「とんでもない。しかし、どんな時もなんらかの可能性は考慮すべきだと考えています。それが出来ないなら、単なる無関心な人間です。配慮というものがあります」


「正しい」


 ディークはトントンと膝と叩いた。

 そして、酒の入った杯を手にした。


「まずは、我々に乾杯といこうか。フランシスカ、お前の狙いは、後で聞き出す。村人の作った酒だ。飲むがいい」


 ディークの勧め。それに対してシュクレは、もしや毒が、と案じた。

 しかし、そんなシュクレを無視して、フランシスカはノータイムで杯を手にした。


「我々の出会いに乾杯を」


 ディークより早く飲み干したフランシスカ。美味しいお酒であった。


「ほう。胆が据わっているではないか。毒が入っているとは、思わなかったのか?」


「それは無いでしょう。そんなことをするくらいなら、さっさと私を串刺しにしてしまった方が早いです」


「その通りだな。フランシスカ……なかなか見どころがありそうだ。面白い」


 ディークはフッと笑った。賛辞である。


「ディーク、貴女は何故、イグドラシルと一緒にいるのですか?」


 先制攻撃のフランシスカ。腹の探り合い。


「安全が必要なのでな。アクドラは、今大いに動いている。これまではパワーバランスの維持のため、動けずにいたが、事情が変わった。聖女どうしで組んでも問題あるまい?」


「そうですね。私も、マリアンヌと協定を結んでいますし……。……協定を結んでいるのは、イグドラシルだけですか?」


 フランシスカの直感。


「質問の意図が読めない」


「聖女はまだ、ミリアムとナイムがいるはずです。その人物たちと、繋がりは無いですか?」


「面白い質問だな。だが、お前が私の立場だったとして、その質問、答えるか?みすみす相手に情報をタダで渡すようなもの」


「返答しないということは、何かあるのでは?」


 シュクレが口を出した。その裾を引っ張るホウオウ。


「黙ってろシュクレ」


 言われた通り黙る。


「ディーク、あなたは正しい。私だったら、迂闊に情報はバラさないでしょうね。ミリアムとナイムについては、保留にさせていただきます」


「察しが良くて助かる。それで……貴様の狙いは、一体なんなのだ?アクドラを支配するつもりか?マリアンヌと組んで」


「私の狙いは……」


 フランシスカが一呼吸置いた。


「国王を殺すことです。アクドラ全体の聖女をまとめ上げ、あの忌々しい国王を殺し、あの国を平和に導くことです」


「国王を殺す?」


 ディークはフッと笑った。買い被りすぎたか、というように。


「国王の強さは知っておろう。聖女で勝てる相手ではない。本気でその主張を通すつもりか?」


「はい」


 ノータイム。


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