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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第四章 第三聖女への誤算
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イグドラシルの道具

 イグドラシル領。イグドラシルは頭を悩ませていた。密偵オルエンの情報通りなら、このままいけば赤い牙と衝突することになる。逃げ場はない。イグドラシル領は海に囲まれている。唯一隣接している領地がディーク領。

 考え込む。赤い牙は、どうやってイグドラシル領を攻めるつもりだろうか、と。イグドラシル領を狙えば、必然ディーク領を通らなければならない。海から来るとは考えづらい。

 ディーク領をどうやって通り抜けるか。一つ目の可能性。ひっそりと進軍ルートを確保している。これならまだいい。二つ目の可能性。ディークが赤い牙を放置している。これが厄介。実質同盟のようなもので、逃げる場所無しという最悪の状況。

 だが、裏を返せば、ディークを攻める手段となるとも、イグドラシルは考えた。赤い牙と組んでいるのだから、悪者だ。


 後手に回ってはいけないのは、目に見えていた。ディークと赤い牙の連合に仕掛けられれば、壊滅は免れない。そのことをオルエンと相談するイグドラシル。


「オルエン、こちらから攻め入った場合、勝てそうですか?」


「厳しいっすね。ディーク領の連中だけならまだしも、赤い牙が厄介です。あいつら、こそこそ力をつけてたみたいで、もしかするとディーク関係なしに、負けちまうかも」


「何か、策は……」


「……投降するってのはどうです?」


 オルエンが持っていた茶を机に置いた。机に重心をかける。


「我々に仇なす者に、敗北しろと?」


「端的に言うとそうですね。被害を抑えるには、それしかないのでは?その際、いくつかディークに条件をつけさせる。いわば、逆協定ですね」


「……確かに、部下の被害を考えれば……しかし、赤い牙がどう出てくるか」


「赤い牙も、勿論厄介です。ただ、ナイムもキナ臭い動きを見せている。敵はディークと赤い牙には限らないってこってす。素直に条件付きで降伏するのが、一番無難かと」


「ふむ……正しい」


 イグドラシルは頷いた。覚悟を決めたように。

 そして、白い左手で、美しい水晶球に手を当てた。


「オルエン。少し疲れるかもしれませんが、水晶球を使わせてください」


「聖女の道具の?」


「そうです。貴方の情報を元に、未来を見ます」


 イグドラシルの聖女の道具は、水晶球。一人を対象とし、その者の思考力を介して、未来を見る。ただ、戦術予測値のようなもので、確定の未来ではない。ほぼ正解に近い未来、である。


「仕事に差し支えないくらいの疲れなら、大丈夫っすけど。つか、俺でいいんですか?もっと他に使った方がいいんじゃ?」


「貴方には情報がたくさん集まっています。より正確な予測をするためには、貴方の力が必要です」


「了解です。いつでもいいっすよ」


 オルエンは両腕を頭の後ろで組んだ。いかにも飄々としている。

 イグドラシルが水晶を手に取る。


「聖女イグドラシルの名の元、命じる。水晶玉よ、我に答えよ」


 水晶を見るイグドラシル。深く、深くを見通す眼差し。

 見えた光景。

 血を流して誰かが倒れている。

 その人物は、第二聖女ナイム。

 そして、それを見下ろしているのは、忌々しい、追放を行った国王だった。


「……これは」


 イグドラシルが困惑している。無理もない。


「え、もう終わったんですか?全然疲れなかった。何が見えたんです?」


「ナイムが国王に殺される未来が見えました」


「は?」


「限りなく正確なはず……水晶球通りなら、ナイムはなんらかの形で、国王と対峙していることになります。あの忌々しい国王と」


「なんでディークじゃないんですか?ディークの動きは?」


「ディークは水晶に現れませんでした。わからない……。何故?何故、ナイム?しかも、聖女同士の争いではない。何故、国王と戦っている……?」


「……反逆?」


「まさか。あのクズ国王は、忌々しいながらも、圧倒的な力を持っています。聖女では勝てる相手ではありません」


「でもナイムが倒れてたんですよね?」


「はい。ナイムが国王に反旗を翻すのであれば……私は、どう出るのか」


 イグドラシルは自問した。国王が憎い。殴られたこともある。その国王を倒せるのであれば協力したいが、恐怖感も否めない。国王は絶対の力を持っている。

 そもそも、ナイムが勝てないのなら、どうやって勝てるのかわからない。せめて、最強の聖女ミリアムの光景が映っていれば、と思う彼女。

 出来ることをしたい。イグドラシルの信念は、自分に出来ることをすること。

 ナイムに接触する?そう考えた。ナイムの真意を知りたい。

 問題なのがディーク。結局、ディーク達が攻めてくることには変わりはない。

 潔く投降して、ディークに従う。その上で、ナイムに接触を試みる。それしかないか?

 イグドラシルの思考は回転していた。数多の選択肢に対して。


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