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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第四章 第三聖女への誤算
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渦巻く戦略

 赤い牙。その軍団は、金で動いている。それには理由がある。

 赤い牙のトップの名は、ディジアという。ディジアは、いずれ海を渡り、他の大陸で暴挙をするつもりなのだ。だが、海を渡るというのは簡単ではない。アクドラ、それに隣接している大地からでも、他の大陸に渡るのは至難の業と言われているのだ。

 だが、金があれば話は違う。より強固な船を作り、投入できる人員も増える。

 では、何故アクドラにいるのか?それは、聖女達を利用しようとしているからである。

 状況が混乱すれば、当然、第三者の力を借りたくなる。ディジアはそこにつけこもうとした。元聖女とはいえ、聖女は聖女。金持ちもいる。実際に、ディークにスケッチを売っている。

 大きなジョッキで酒を飲んでいる、首領のディジア。赤い髪。体格が大きすぎる。そして、その表情は、どこか不満そうだ。


「イグドラシルめ。忌々しいやつだ……追放された出来損ないの分際で。俺たちを潰そうとしてやがる。俺らは這い上がる蜘蛛のようなもの。いくら潰したって、地を這ってでも復活するのにな。無駄な策略を」


「しかしお頭、イグドラシルは強いのでは?」


 酒を運んでいるディジアの部下が言った。


「大したことねぇよ。ナイムの方がよっぽど厄介だ。イグドラシルの聖女としての能力の情報も、もう入手してる。貴重なカードが一枚バレてるんだから、話にならねぇよ」


「どんな能力なんですか!?」


「なんでお前に教えなきゃなんねぇんだ!殺すぞ?」


「ひっ」


 怯えるディジアの部下。ディジアは明らかに気が立っている。

 ディジアは赤い牙のトップだけあって、実力はある。

 だが、その性格は残忍そのもの。どんな悪行もやってのける。

 彼はニヤリと笑った。


「今までは、どの勢力にも属さず、ただの右往左往で様子見してきた。だが、ついに俺たちもこのアクドラで、領地を手に入れる時が来たのさ。これまでのような、移動する旅とはお別れだ。領地を作る。強奪してな」


「ご、強奪?誰から?」


「第三聖女イグドラシルの領地だよ。奪う。金も土地も女もな」


 ディジアはニッと笑った。


 イグドラシル領にて。イグドラシルに突然の知らせ。

 男の密偵、オルエンが情報を持ってきた。


「イグドラシル様、やばいっす。赤い牙がイグドラシル様を狙っています。いや、それだけじゃない。俺たちの領地ごと奪う気でいます。これ、対策練った方がいいですよ。赤い牙はそれなりの力を持ってます。聖女に匹敵するかもしれない。どうします?」


「オルエン、よくぞ働いてくれました。そうですね……赤い牙が狙いを立てているということは、算段があるのでしょう。勝てると踏んでいる。そうなると、我々だけの戦力で戦うのは、危険極まりない……対赤い牙の連合を組めれば、アクドラから赤い牙を追い出せるのですが……聖女同士で組むことは、出来ないでしょうね」


「そうでもないっぽいですよ。こちらはまだ確定じゃないんですが、どうもアクドラ全体が動いているんです。ほら、新しく追放された、聖女フランシスカがいるでしょ?あいつがですね、なんでも、マリアンヌと協定を組んだって話が。それだけじゃありません。ナイムとディークも動いてる」


「パワーバランスが崩れているわけですか」


「そうなりますね。そうなると、ヤバイ。他の聖女達が結託すれば、俺たちの勢力は、比較すると小さいことになります。今のうちにどこかに連携作らないと、置いて行かれますよ。まぁ、どの聖女と組むかって話ですけどね」


「どこと組むか、ですか……」


「ディークはどうです?ディークの聖女の力は、俺たち知ってます。四天王の指輪でしたっけ?身に着けている奴が、強い力を得る禁忌の指輪。逆に言えば、ただ戦闘力が上がるだけ。ディークを味方につければ、隣接しているナイム領とマリアンヌ領にも干渉出来る。どうすか?」


「発想としては、いいと思います。しかし、材料が足りません。ディークを説得するのに必要な条件がない。私がディークに接触して、協定を結んでくれと願ったとしても、なんのメリットがあるのか?と返されて終わりです」


「そんなにあっさり断られますかねぇ」


 オルエンは飄々としている。茶色の髪をかき上げた。



 別所にて。ディーク。


「イグドラシルと組むことにメリットはない」


 言い切っていた。傍にはイルゴールとヴェルゼ。会食中である。立ちながらでの会食となっていた。

 白い机が並び、美味しそうな料理が上に置いてあった。ナイムは近くには見えない。

 イルゴールが意見した。


「イグドラシルを懐柔すれば、我々の勢力は、三聖女という強大さを手にします。ここは、イグドラシルと組むことにメリットがあるのでは?」


「無い。正確には、あるけど無い。考えてみろ。この短い期間に、私はナイムと協定を結んだ。だがしかし、その繋がりが強い物かというと、そうでもない。崩れる可能性は十分にある。まだナイムとの関係も安定していないのに、ここでイグドラシルと組むなど、愚の骨頂。どこかに歪が生じ、我々の関係性は崩壊するだろう。保守。今はとにかく、保守だ」


 ディークは葡萄酒を口にした。彼女は酒に強い。


「ずっとナイムと協定を組み続けるつもりですかね?」


 ヴェルゼが横から口出しした。彼の現在の心境はというと、助かった、である。正直、ディーク領は敵に囲まれていたので、早いうちに抜けるつもりだったのである。

 だが、状況が変わった。ディークが有利になりつつある。それを見て、もう少しこの船に乗ってみるか、と思ったヴェルゼ。


「ナイムは裏切れない。善の裏切りならまだしも、ここで意味不明に裏切っていては、聖女に値しない。協定は続行だ」


「へえ」


 ヴェルゼは口笛を吹いた。彼はチキンを手に取り食べた。新たな獲物に期待を馳せて。


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