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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第四章 第三聖女への誤算
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ホウオウ、しみじみとする

 フランシスカ隊は、強行軍を取っていた。マリアンヌ部隊と合流したので、急ぎマリアンヌの救出へ向かっていたのである。そこに、マリアンヌからのテレパスが届いた。


『フランシスカ様 ホウオウと合流出来ました。現在、ディークの姿は見当たりません。引き上げたのかもしれません。どうか、ご無理はなさらず』


 ご無理をなさらずなんて言われたら、無理を通したくなるのが人情だろうと思ったフランシスカ。ホウオウとマリアンヌが合流出来たのは大きい。こちら側の情報は、ホウオウを通してマリアンヌに届いているはずである。

 シュクレに相談。彼は自分の金髪に手を当てた。


「フランシスカ殿、進軍速度を落としたほうがよろしいかと思いますね。出遅れている者もいる。ホウオウ殿がいるなら、すぐに戦いは起こらないはず。配下が進軍速度に追いつくのを待つべきです。中途半端な戦力でディークに立ち向かっても、足を引っ張るだけです。統率の取れていない部隊ほど無能なものはない。ここは心を鬼にして、進軍速度を落としましょう。貴女も疲れている。肝心の聖女が疲弊していては話にならない」


 シュクレはすらすらと述べた。彼自身も疲れているのだが、そのような素振りは隠していた。

 考えるフランシスカ。シュクレの言っていることは正論だと判断している。進軍速度を落とすか、このままか。

 考慮の末。


「わかりました。進軍速度を落とします。シュクレ、伝達の手伝いをしてください」


 フランシスカはシュクレに告げた。御意、とばかりに動き出すシュクレ。

 マリアンヌ兵の一部が不満そうにしていたが、疲れているマリアンヌ兵がいるのも事実だった。

 落ちる進軍速度。緩まるその速さの中、フランシスカは、ディークと対峙した時の行動を、いくつか想定していた。理想は不戦である。

 ホウオウの無事も祈っていた。彼女が、どうか死なないように。



 一方、マリアンヌ領にて。

 

「美味しいぞマリアンヌ」


 ホウオウはもしゃもしゃと野菜を食べていた。にんじんの残りカスすら残さない。


「生まれてきてよかったなぁ」


 しみじみと言っているホウオウ。割と本音である。マリアンヌはクスクスと笑っていた。


「ホウオウは本当によく食べますね」


「当たり前だ。世の中の人間というのは、お腹が空くということがどれだけ罪か、わかっていないのだ。食べられるのは幸せなことなんだぞ。衣食住。これら全て、人間の大事な要素だ。そもそも……もしゃもしゃ……パンの美味しさというのは……もしゃもしゃ……」


 食べながら話している。行儀の概念は無い。


「むしゃむしゃ」


 まだ食べている。三人前は食べているだろう。


「ディークは来ないな。どうする?フランシスカがここに来ると思うが」


 食べて満足そうなホウオウ。まるでパンダである。


「そうですね……合流したいですね。私の部下とも、合流してくれているでしょう。安全に合流して、今後の方針を取りたいところです。今は、アクドラが激動している。フランシスカ様の思想の元、あの国王を消し去ることが出来るかもしれない。そのためには、受けてばかりもいられない……隣の領地、ディーク領に、逆に干渉するという手段も考えられます。ディークは多数の聖女から干渉を受けているはずです。ナイム、イグドラシル、そして私。隣接している領地が多い分、ディークに話が通れば、アクドラ全体をまとめあげることが出来るかもしれません。そのために、まずは盤石。話はそれからですね」


「妥当な線だな。戦力を固めるなんて、基礎中の基礎。マリアンヌ、お前は仲間のためとはいえ、暴挙をしたんだぞ。自分の身も安全にするんだ」


「聖女ですから」



 そのマリアンヌの言葉は、静かに、そして優しく響いた。

 以前のマリアンヌと、少し違う。自信にも似た、感情の芽生えが感じられた。



 別所にて。緑の咲き誇る、美しい庭園があった。

 噴水が設置されている。アクドラでは珍しい。

 その庭園にて、一人の聖女が散策をしていた。緑のロングヘア、銀の瞳。色が恐ろしく白い。

 その人物は、第三聖女イグドラシルであった。彼女は微笑みにも似た、優しい顔色をしていた。

 歩くのを止め、彼女は傍に設置されていた椅子に座った。白い机に書類を置き、その書類を読み始めた。

 その書類とはなんなのか?それは赤い牙に対抗するために集められた、情報の塊であった。

 彼女は、聖女同士の争いに参加はしていたが、そんなことは些末事だと考えていた。問題なのは、確定の悪の赤い牙だと認識していたのである。

 金さえ貰えばなんでもやる。論外。

 イグドラシルの狙いは、赤い牙を全滅させること。苦い経験をしたことがあるからだ。

 部下を赤い牙に殺されたのである。それも、寵愛していた。最初は、他の聖女の仕業だと思った。だがしかし、調査を開始して、調査をしているうちに、赤い牙という集団の仕業だということが判明した。

 普段は大人しいイグドラシルだったが、その時ばかりは激昂した。絶対に、殺してやると。

 目標を立てたイグドラシルは、もう他の聖女など眼中になかった隣接しているディーク領への対策を立てながらも、他の人員は、すべて赤い牙殲滅へと差し向けた。


 書類に目を通しているイグドラシル。赤い牙の情報がたくさん乗っていたが、その中に聖女関連の文書があるのが気になった。

 イグドラシルの部下の、腕利きの密偵。その密偵からの情報である。どうやら、アクドラ全体が、動き始めている。

 その主要人物は、新たに追放された聖女、フランシスカである、と。


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