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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第三章 第四聖女との軋轢
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三つの地点での話

 フランシスカ隊は、マリアンヌの配下たちと合流していた。マリアンヌからのテレパスのおかげで、フランシスカは状況を把握していた。全員、逃げている兵。その兵たちをまとめる必要があったが、それは思いのほか早く進んだ。マリアンヌの指令が的確だったためである。とにかく、フランシスカに従えと。

 フランシスカはすぐに指示を出した。


「マリアンヌ様を助けに行きます。皆、異存はありませんね」


 問いかけるフランシスカ。一度はマリアンヌに逃がされた配下たちも、それに対して異論を挟みはしなかった。マリアンヌ様を助けたい。その忠義。


「マリアンヌ様は、私に良くしてくれた。その御恩、ここで返す覚悟です」


 フランシスカが凛々しく言った。聖女たる行い。人の助け。

 シュクレは黙ってついてきていたし、マリアンヌ勢も、ここぞとばかりにフランシスカの後をついてきて、進軍。

 遅れを取らない。フランシスカ隊とマリアンヌ隊の合流は成った。後は、マリアンヌを助けるのみ。


 ディークは、ナイムと共に自領へ戻っていた。ナイムの背景を知ったせいか、彼女に信頼、いや、同情の念が生まれていた。

 結果的に、ディークとナイム軍は精鋭揃いである。ディークもそこそこ戦えるし、イルゴールとヴェルゼもいる。加えて、ナイムもいるのだ。盤石と言ってもいい。

 だが、ナイムの発言が気になった。ミリアムに苦戦している、と。その点について、ディークはナイムに聞いてみることにした。


「ナイムよ。ミリアムは、そんなに強いのか?」


「強い」


 即答したナイム。彼女はもう普通に戻っている。


「具体的には?」


「あいつね、魔術を使えるんだよ。氷柱を飛ばす魔術とか。直撃したら即死だろうね。前に、喧嘩売られたんだ。そしたらそこで戦いになって、私にも部下がいるんだけど、下がらせた。接近出来れば、殺せたんだけど……それは阻まれた。あいつには近寄れない」


「ふむ……。私に出来ることはあるのか?」


「あるねぇ。ちょっとした作戦があるんだよ。対ミリアムの」


「ほう?」


「補給路。ミリアムは西の領地だけど、補給路がほとんど無いんだ。私の領地を通らないと、物資の補給は難しい。だから、ちまちまと私の領地内を通過しているんだよね。人手不足で、それを阻むことが出来ないんだ。ディークが協力して見張ってくれれば、ミリアムは自滅する。あるいは、追い詰められて飛び出してくるか」


「ありきたりな戦法だな。だが、しかし……有効だろうな。自給自足は出来ていないのか?ミリアムは」


「ある程度、作物は育っているみたいだね。でも、それだけじゃ限界が来るでしょ。補給路を断てば、どんどん効率は落ちる」


「帰ってから考慮する」


 ディークが言った。一考の価値あり。

 もう、二人の頭の中にマリアンヌはいない。急いで攻める必要もないのだから。


 そのマリアンヌが何をしていたのかというと、ホウオウと食事を摂っていた。正確には、ホウオウに食べさせていた、である。

 もしゃもしゃと食べるホウオウ。

 赤いパプリカが映える野菜。

 レーズンと、シナモンをまぶしたパン。

 三種の野菜で煮込んだスープ。

 ホウオウは最初、そんなことをしてる場合ではないと反論したが、マリアンヌが冷静に諭していた。


「ホウオウ、出来ることは無いのです。ならば、せめて体力を回復させてください。ボロボロになるまで動いてくれてありがとう。食事は大切です。攻めてこられても、受け入れましょう。それは、仕方のない事。協定を結んだのですからね。さあ、お食べになって」


 マリアンヌの提案に戸惑うホウオウだったが、受け入れることにした。確かにお腹は空いていた。体力のない状態でマリアンヌを守れるかというと、疑問だったということもある。冷静に、もぐもぐ食べることにした。


 しかし、ある程度の時間が流れて、二人ともが、おかしいと思い始めた。逆に。

 ディークが現れない。ディーク領から出発しているのであれば、とっくに辿り着いているはずである。

 密偵の情報が間違っていた?マリアンヌは疑った。しかし、マリアンヌ配下の密偵は、信頼できる人物だった。ミスをするとは考えづらい。

 では、何故なのか。ディークが進軍している最中に、何かがあった。そう考える。

 マリアンヌは思い至らなかった。当然である。情報が無いのだから。

 だが、ホウオウには思い至るところがあった。


「……ナイムか?」


 呟くホウオウ。


「ナイム?」


 首を傾げるマリアンヌ。美しい。


「ここに来る途中、ナイムと遭遇した。正直……勝てる気がしなかった。たった一人だったのに。あいつの影響かもしれない」


「ナイムがディーク達に接触したと?」


「わからない。ただ、理由があるとすれば、それくらいしか思いつかない。どうあれ、それであれば有利だ。フランシスカと合流出来る」


「確かに、そうであれば、時間が稼げたことになりますが……裏を返すと、少し怖いですね。ディークは情報を持っている。それがナイムに知られれば……」


「ナイムは、森で私たちを見たらしい。協定のこともバレている」


「そうなると、ディークに攻め込む口実を与えることになりますが、何故、攻めてこないのでしょう?ディークとナイムが接触していないからでしょうか。それにしては、ディーク軍の侵攻がやはり遅い」


「何か出来ることはあるか?」


「出来ること……そうですね、傍にいてほしい、くらいでしょうか。自分の決めたこととはいえ、心細いので」


 マリアンヌは苦笑した。


「わかった。お前を守り切ることが、フランシスカからの任。使命を果たそう」


「ありがとうございます。ホウオウは、何故そんなに、フランシスカ様に尽くすのですか?」


「……フランシスカは、私を奴隷の身分から解放してくれた。そのせいで、フランシスカはお人好しだとか、自分勝手だと罵倒されたこともある。それでも、私のことを見捨てなかった。だから、出来る限りのことはしてやりたいんだ。本来、私は死んでいた命なんだと思う。それでも生きていられたのは、フランシスカの慈愛だ。私は忠義を尽くす」


「羨ましい」


 微笑むマリアンヌ。ホウオウの真っすぐな瞳が、マリアンヌを引き込んでいた。


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