ぼろぼろであろうとも
ナイムとディークの会談が続く中、ホウオウはマリアンヌの近くまで来ていた。
あと少し。あと少しで、情報をマリアンヌに届けられる。
しかし、奇妙な点があった。人の気配が少ない。
もしや、攻め入られた?そういう不安がホウオウを襲った。ナイムの相手をしていて、手間取ったせいか?
だが走るより他に選択肢は無い。身を低くして、ひたすら駆ける。
間に合わせる。それが、フランシスカへの忠義。
一方マリアンヌ。彼女は一人きりであった。戦う必要もない。ただ、潰されるのを待つのみ。
彼女の思うところは、結果的には、やっと聖女足りうる行動がとれた。そう思っていた。
他人頼りの自分が嫌いだった。能力もテレパスしかない。国王にも、罵倒された。折角聖女にしてやったのに、お前の無能さはなんだ、と。
それらの罵倒も受け入れた。受け入れるしかないのだと。変わろうとはした。だけど、性格を直せない。
変わろうとしたのに。そんな自分が嫌だった。人から嫌われたくない。その思いが強まるばかり。
しかし、彼女は人のためになるこの瞬間、とても満たされた気持ちでいた。
一人で、紅茶を飲んでいる。
自分の行いで、助かる人がいる。それがとても嬉しくて、良くしてくれる配下たちに、感謝の念を抱いていた。
今まで尽くしてくれて、ありがとうございました。
フランシスカ隊。フランシスカは、全体の限界まで進軍速度を上げていた。
シュクレがフランシスカに意見している。
「フランシスカ殿、進軍が強行軍すぎるのでは?置いていっている者もいるのです。これ以上の過剰な速度は疲弊が……」
「お黙りなさい。マリアンヌだけは死なせてはならないのです。あの人は……」
「時には非情になることも必要です。ホウオウ殿も出撃されている。冷静になるべきです」
「冷静です。私の判断が不服なら、貴方も遅れてくるがいい」
「……お供します」
冷たく言われたシュクレだったが、彼は不満そうな表情はせず、満足気な表情だった。言われて嬉しいところさえある。ついていくに値する。
「ホウオウを信じながら進軍します」
フランシスカの静かに響く声。マリアンヌ救出への道。
ディークとナイムは協定を結んだ。その結果、ディークはマリアンヌ領への攻撃を停止した。引き返すことを選択したのである。ナイムと共に。
結果、戦いは起こらず、マリアンヌが一人、マリアンヌ領にいるという状況。
それを知らないホウオウが、必死にマリアンヌの元へ辿り着いた。
体中から出る汗。足へ気力を送るため、全身疲れ切っていた。ひと時も休まなかった。
「マリアンヌ!!」
呼びかけるホウオウ。マリアンヌ領の城の前で。城は白く高い。
返事がない。そして、気配が無い。
そのことに恐怖を覚えつつも、ホウオウは城の中に突入した。
無事でいてほしい。その一心。
人を助けるのに理由はいるだろうか。そんなことを、ホウオウは思ったことがある。
結果は、イエス。彼女はフランシスカに救われたのだ。
採算の無い行為が人を撃つ。無償の愛は、言い過ぎだが、献身することが、ホウオウには出来る。それは、徳が高いと表現するのかもしれない。そんなホウオウだから、フランシスカに信頼されているのだ。
足はぼろぼろ。上半身も万全じゃない。敵と鉢合わせるかもしれない。
それでも彼女は城に突入した。その姿は、フランシスカの配下で間違いなくナンバー1の、生ける献身と言えた。




