私と死んでくれないかしら?
現在。フランシスカも、ようやくコーヒーを口にした。苦い味である。最後の休息かと思うと、自然と美味しくなる。
「落ち着いたか?」
ホウオウがコーヒーを飲みながら尋ねた。やはり、主の心境が心配の様だ。
「ありがとう、ホウオウ。そうね……やっぱり、敵だらけの死地に、赴くとなると、緊張する」
「守り抜くが……そうだな、ちょっと緊張しているくらいの方が、いいのかもしれない」
「少しだけ、生き抜くための作戦が、無いわけでもないのよ」
「ほう?」
ホウオウは首を傾げた。興味深げである。
「えっとね、五人の元聖女が、いがみあっているんでしょう?だったら、追放されたという事情は、みんな共通しているはず。だったら、聖女でチームを組んで、あの国王に、反旗を翻せないのかな、って」
「なるほど。しかし、理想論じゃないか?五人の元聖女は、性格もバラバラだと聞くぞ?」
「それもそう。でも、五人とも生きているってことは、どの聖女も、相手も攻めあぐねているってことでしょう?戦力が拮抗している。多分……私を狙ってくるんじゃないかと思うのよ。追放された、六人目の聖女の私を。私を抱え込めば、自分たちの戦力が上がるのだから」
「逆に、早めに芽を潰そうとして、速攻で私たちを殺しにきたら、どうする?」
「諦める」
フランシスカは、ホウオウの方を向いたまま、凛とした表情で言い放った。その言葉は、一縷の迷いもないように聞こえた。
「何もせずに、朽ち果てるというのか?そんなことはさせない」
「何もしないというのは、少し違うわ。『諦める』という行動をするのよ。これは、とても勇気がいること。何故かって、諦めていれば、殺されてしまうのだから。それでもなお、諦める。徹底的に、戦わない意志を見せるの。そうすれば、相手の心も動くかもしれない。それくらいの覚悟が無ければ、仲良しでいましょうなんて、都合のいい事は言えないわ」
「……」
ホウオウは腕を組んで、黙り込んだ。不満そうである。
そして、口を開く。
「賛成出来ない。貴女を見殺しには出来ない」
「そう……じゃあ、ここで別れた方がいい。私は、最善の策と信じているから」
「意見は曲げないか。じゃあ、これなら、いい?」
「なに?」
「心中」
「いいわ。一緒に死んで。ホウオウ」