突破出来ない動く壁
ディーク達は、予期せぬ相手と遭遇することになった。それは、第二聖女ナイム。ディークが一番厄介視している聖女。ディーク領の隣の聖女。
なんでこんな所にいる?
焦り。ディークはナイムの能力を知っている。ディークに言わせるところの化け物、人を認識するだけで殺せる能力。なんらかの制約があるらしいが。
一つの条件は知っていた。顔を隠しておけば殺されない。
だが、マリアンヌ領へ遠征しているディーク達は、仮面をつけていなかった。
ナイムがどう出るか。ディークが冷や汗をかいている。
もしかしたら、他の領地へ攻め込むことを非難するために、ナイムが現れたのではないか。
ごたごた考えていても仕方がない。現れた以上、戦うしかないのだ。
だが、ナイムが接近してこない。姿もはっきりと捉えられない。
イルゴールとヴェルゼは立て直していた。流石に実力者である。
「ディーク様、これはナイムの気配では」
イルゴールは、ディークを守るために槍を取っている。
「わかっている!わかっているから考えているんだ」
「申し訳ありません。しかし、戦ってはなりません」
「俺も同意見ですね。あいつには関わらない方がいい」
ヴェルゼも会話に参加していた。実を言うと、ヴェルゼは赤い牙と繋がっている。金を貰っている。タイミングを見計らい、ディーク達を裏切るつもりでいた。
何故か?いずれ、ディークは潰されると踏んでいたからである。三つの領地に囲まれているディーク領の平和は、実に危ない物だったのだ。
それならば、金を手にして裏切る。それがヴェルゼの考え方。そもそも、彼は忠義心でディークに仕えているわけではない。イルゴールとは違う。
だがヴェルゼは焦っていた。なにせ、あの厄介な第二聖女、ナイムが現れたからだ。目の目にさえいないものの、接近すれば、戦闘になるかもしれない。彼はその恐ろしさをよくわかっていた。
ナイムがどう動くか。それが、ディーク軍の懸念となった。恐ろしい気配がするが、接近してくる様子はない。脅しなのだろうか。何のために?
ディークの部下の一名が、ディークに進言をした。
「ディーク様。イルゴール様とヴェルゼ様がいれば、恐れることはないのでは?大群ではないのでしょう?ここは、進軍した方が……」
「貴様は馬鹿か」
苛立った様子で返事をするディーク。
「ナイムはただの人間ではない。あれは化け物だ。迂闊に戦ってはならない。貴様、死にたいのか」
「たった一人で一体何が……」
「馬鹿者が!!」
憤慨するディーク。ナイムは、最強の聖女とも言われる、ミリアムとも互角に戦える。
ナイム一人、それに対してディーク軍。戦ったらどちらが勝つか?
「我々は5分と持たず全滅するでしょうね」
そう言ったのはイルゴール。もう怯んではいない。
「その通り。問題は、ナイムに交戦の意図があるのか、ないのか。そして、何故この領をうろついているのかという点だ。考えられるのは……我々の情報が漏洩した。何らかの形で。だから待ち伏せしている。もしくは、偶然にもそこにいただけという可能性。いずれにせよ、引き返すというのはあまりにも弱気……」
ディークは唇を噛んだ。順調な進軍のはずだった。それが気が付けば、狩られる側にいる。ナイムがディークを攻撃する理由は、なんとだってなるのだ。ディークがマリアンヌを攻めようとしたのが悪い。そう言われたら反論できない。
「様子を見る。ただ、弱気にはならない。気配が近づいてこなければ、行軍を続行する。接近してくれば、止むを得ない。戦うしかない。もう戻れない」
結論をディークが出したが、本当は退却したかった。しかし、彼女にもプライドがある。ナイムがいたから、のこのこ逃げてきた。そんなこと、ディーク領に残った味方に言えるわけがない。
皆、ディークの意見に頷いていた。忠誠心の無いヴェルゼ以外は。彼は、ナイムの戦うなど論外だと知っている。申し出る。
「ディーク様、退却した方がいいんじゃないですかね。勝てる勝てないの問題じゃなくて、頭が良いのか悪いのかの問題だと思いますよ。メリットが無い。マリアンヌなんて、いつでも落とせると思いますよ。今は、機ではないのでは?」
「マリアンヌとフランシスカが協定を固く結んでしまうのかもしれないのだぞ」
「しょうがないのでは?」
飄々としているヴェルゼ。だが、正しい。
「……少し、考えさせろ」
ディークは腕を組み、俯いて考え始めた。
ヴェルゼは思う。泥船から脱出するのが遅れたな、と。




