決意と気配
フランシスカ軍。彼女たちは、マリアンヌからのテレパスを受け取っていた。
内容。
『フランシスカ様へ。敵に情報が洩れているかもしれない。そう思い、私以外、全員避難させることにしました。フランシスカ様が通るであろうルートに出向くよう、命令しています。私は、一人でディークと対峙します。それが私の出来ることですから。お気をつけて。兵力はフランシスカ様が使っていただいて構いません。どうかよい人生を』
このテレパスを受け取った。フランシスカの反応は……。
「……聖女だわ」
涙ぐんでいた。自らの死を厭わぬ覚悟。己を犠牲にする行為。
絶対に、行軍を間に合わせると、フランシスカは誓った。足の遅い者は置いていく。マリアンヌを死なせてはならない。死ぬべき運命にない。守らなければならない。
「早足!駆け!」
彼女は配下に指示を出した。皆、急いでいる。マリアンヌとディークが出会ってしまう前に。
そのためには……。
他所。キーパーソンのホウオウ。彼女はマリアンヌ領に入っていた。間に合っているのである。
だが、不運があるとすれば、マリアンヌの逃がした部隊と合流出来なかったことだ。ホウオウは事情を知らないし、運悪く、逃げている部隊と嚙み合わなかった。
とにかく、マリアンヌへの接触。ホウオウはそれだけを考えている。いや、考えていないかもしれない。それほどまでに余裕が無い。
遠くを見るホウオウ。視点をディーク領に。
視る。凝視。とにかく、視る。景色を見ているのではない。気配を見ている。
強い気配が、三存在。おそらく、ディークもしくは、ディークの配下ではないかと感じられた。他は大したことは無い。
だが、ホウオウにとって大したことが無くとも、マリアンヌにとっては厄介な可能性もある。凝視を止め、また再び、マリアンヌの元へ辿り着くための機械と化した。
ディーク達。彼女たちは既にディーク領から出立している。目標、マリアンヌ領。
先頭にイルゴール。その後ろにディーク。そして、そのまた後ろにヴェルゼ。この三存在の実力は、まだ未知なる物。四天王の指輪はあるが。
馬に乗り進軍していたディーク達だったが、イルゴール、そしてディークとヴェルゼが同時に馬を止めた。
「感じた?」
ディークが無表情のまま言った。
応ずるのは、忠誠の一番厚いイルゴール。
「ええ。誰か見ていましたね」
「誰だと思う?」
「マリアンヌの配下と考えるのが自然ですが……」
「ふむ。しかし、それは無さそうに思える。マリアンヌとは数回顔を合わせたが、その時は、今感じた気配のような物は感じられなかった。フランシスカの配下かもしれない。勝てる?」
「……正直に話しても、構わないのですか?」
「勝てるのかどうか聞いている」
「申し訳ありません。では、率直に。ディーク様の身が危ないと存じます。対抗出来るのは、私とヴェルゼくらいでしょう」
「勝率」
「上出来で3割かと」
「ヴェルゼと力を合わせれば?」
「8割」
「よろしい。では……」
ディークが勝てる見込みがあると踏み、突撃をかけようとしたその時。
おぞましい気配がディーク達を襲った。イルゴールですら怯んだ。ディークも、ヴェルゼも。
気配が続く。殺気。死の気配。
皆、戦闘態勢を取っている。明らかに異常な気配。
「先ほどの者とは違う」
ディークが絞り出すように言った。
思い当たる人物はいる。一番厄介な、西の領地のあの聖女。
「ナイム……!!」