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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第三章 第四聖女との軋轢

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聖女の資格、そしてその資質

 ホウオウ視点。彼女は、ガラハの森を既に抜けていた。ナイムとの邂逅もあったことから、一歩、無駄にしている。時間を。急ぎ、マリアンヌに合流しなければならなかった。

 疾風のように走る彼女。馬に乗っていないが、素足で速い。技のおかげでもある。

 間に合うか?

 いや、間に合う、間に合わないの問題ではないのだ。間に合わせる。それしかない。

 速く。もっと速く。

 ホウオウの加速度が風に乗り、一直線にマリアンヌ領を目指していた。


 その頃ディークはどうしていたか。配下をマリアンヌ領へ向かわせる準備は、整っていた。

 当然、ナイムとイグドラシルへの警戒で、全ての兵力をマリアンヌに割くわけではない。だが、兵力が足りないというわけではない。マリアンヌと激突すれば、勝つのはディークだろう。

 四天王の指輪があるのだ。それを持った四騎士は、とてつもなく強い。もっとも、ヴェルゼという不安要素の見落としはあったが。

 ディークの心境に揺るぎは無かった。戦力は盤石。後は、フランシスカと協定を組んでいるのだから、厄介なことが起こらないうちに、対処するのみ。

 出撃の覚悟を決めたディーク。領地を離れることになる。だが、領地の守りは四天王の指輪を授けた、二人の近衛兵に任せてある。イルゴールとヴェルゼは出撃要員。

 緑の服をはためかせるディーク。告げる。


「イルゴール、ヴェルゼ、出るぞ。我らの力を示す時。忠義を果たせ」


「承知しました。我が主」


 イルゴールとヴェルゼの答えは一緒だった。心境は違っていたが。


「出撃!!目標、マリアンヌ領!!」


 始まってしまうかもしれない。運命の戦いが。

 ホウオウは間に合うのか。間に合わないのか。


 マリアンヌ領にて。マリアンヌは防衛の準備を始めていた。勿論、密偵に情報を探らせていたのだから、大っぴらにというわけにはいかない。だが、準備は絶対にしなければならないのだ。

 ディークは、強力な人物だと、マリアンヌは評価している。何か、強い力を隠している。その予感。

 過去数回、話をする機会があったが、とても冷静な人物であると、評価出来た。

 そのディークに、フランシスカと協定を結んでいることが、知られてしまったら。

 焦り。こんなに早く察知されるとは思っていなかったのだ。本当なら、フランシスカと安全に合流して、防御を固めるはずだった。どこかで、情報が漏れたのか。


 あれ?


 マリアンヌは、自分の思考を追った。

 そうだ。そうじゃないか。

 このタイミングで、ディークが仕掛けてくる。

 理由は?

 無い。普通に考えたら無い。だが、一つだけある。

 フランシスカとの協定が、バレているということである。そうでなければ説明がつかない。実際に、ディークは今まで攻めてこなかったのだ。武力で脅しをかけられたことはあるが。

 そうなれば、当然、マリアンヌは選択を迫られることになる。

 真実を告げるか。虚を告げるか。

 素直にフランシスカと組んでいると言った場合、それは、明らかにマリアンヌとフランシスカが、勝手にパワーバランスを崩したことがバレる。すなわち、反撃の機会、口実を与えてしまう。

 では、当初の計画通り、嘘をついたなら?

 それこそ、論外中の論外である。人を騙す行為である。多少ではない。明らかに過剰な嘘。

 戦いを生む。その予感。

 頭痛がする。マリアンヌは苦しんでいた。

 自分の力でなんとかするしかない。彼女は自分を呪った。

 昔から、自分自身が嫌いだった。どこまでも役立たずで、人の顔色を伺うことしか特技ががない自分が、大嫌いだった。大嫌いだという感情に気づかないほどに。

 お前はなんだ。畑も耕せない。男の面倒も見れない。

 役立たず。いらない。無能。

 マリアンヌは唇を噛んだ。

 なんとかしなくちゃ。

 私は元聖女なんだ。負けちゃダメだ。切り抜けるんだ。


 マリアンヌは悩みに悩みぬいた末、一つの答えを出した。

 それは、死を覚悟した決断。配下を結集させ、彼らに告げた。


「私が、このマリアンヌ領に残ります。みんなは、フランシスカ様と合流を。本当は、こんな形を取りたくはない。しかし、兵力を保持していれば、戦いになります。これは命令です。今すぐこの領地から、全員去りなさい。フランシスカ様なら、悪いようにはしません。さあ早く!!」


「マリアンヌ様、そのような命令は聞けません!!」


「命令だと言っているのです!!私を無下に扱うつもりですか!!」


「しかし……」


「行ってください。それが私の望み。聖女らしく、死んでみるのも悪くはありません」


 配下は涙ぐんでいた。マリアンヌを置き去りにする。

 だが、彼らは絶対に誓っていることがあった。それは、マリアンヌの命令に、絶対に応じること。苦しい。辛い。けれど、彼らは、主君の命令を忠実に迷った。


「マリアンヌ様、願わくば、死なないでください」


「ありがとう」


 マリアンヌは微笑んだ。その笑顔、振舞いたるや、まさに聖女である。


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