四天王の指輪
一方。第四聖女ディークの城にて。
「マリアンヌはアクションを起こさない、か。直接話を聞くしかなさそうだ……。その時、もしも重大な嘘をつくようであれば、犠牲は避けられないな……近衛兵、こちらへ」
水色の髪のディークが、配下の近衛兵を呼んだ。威厳のある声である。
「なんでしょう、ディーク様」
「『四天王の指輪』を渡す相手を決めた。イルゴール、ヴェルゼ、それに加え、城で待機の役割の、二人の近衛兵。以上の人物に四天王の指輪を渡します。近衛兵は後ででいい。イルゴールとヴェルゼをここに呼びなさい」
「承知しました。しかし、イルゴール殿はともかく、ヴェルゼ殿にというのは……」
「呼びなさいと言っている」
ディークは近衛兵を睨みつけた。選択肢を提示させない、圧倒的威圧感の眼差し。怯える近衛兵。
「も、申し訳ありません。ただちに」
「行け」
ディークは窓の外へ視線を戻した。
この戦い、どうなるか。今までの観察結果から見ると、マリアンヌなど、容易く倒せる。なのに何故それをしなかったのかというと、イグドラシルとナイムに、ディーク領へ攻め込む口実を与えてしまうからだった。
だが、事態が変わった。マリアンヌがフランシスカと組んだのだから、ディークが兵力負けする可能性が出てきた。キーパーソンのフランシスカが、どの程度の戦力を保有しているのかも、明らかではない。
捉えようのない、フランシスカという存在が、ディークを疑心暗鬼にしていた。
優雅にビスケットをかじるディーク。ハムスターみたいである。
そこにイルゴールとヴェルゼが現れた。イルゴールは、王道の銀の甲冑。大してヴェルゼは、紫のマントを羽織っており、軽装だった。速さを重視しているようだ。
ディークは椅子から立ち上がり、二人の方を見た。
「揃いましたね。イルゴール、ヴェルゼ。此度の戦い……まだ、戦うと決まってわけではありませんが、戦う可能性が非常に高い。そこで、貴方達に、四天王の指輪を授けます」
ディークが言った。イルゴールが応える。
「四天王の指輪は、身に着ける者が、ディーク様の魔力を受け取り、肉体を強化すると聞いています。そんな貴重な品を、我々が着けてもいいのですか?ディーク様が保有しておいたほうが良いのでは。私は指輪が無くとも、ディーク様への忠誠を誓っております」
イルゴールの返答は、ハキハキとしていて、心地よく耳に届く。それに対して、隣のヴェルゼ。
「いいじゃねーか。どうせ、殺すか殺されるかの凌ぎ合い。油断していたら殺される。それなら、力を持って殺した方が、効率がいいだろ」
「ヴェルゼ、これは戦いなのだ。ディーク様は聖女なのだ。貴様、無益な殺生をするつもりではあるまいな」
「無益?無益の定義を教えて欲しいね。ディーク様の敵なら、殺しても有益だろ?どこで線引きをしているんだ?俺はディーク様に御恩がある。敵を殺すのも生きがいだね。反論があるのか?俺はディーク様のためになることをしている」
「戦うのは仕方がない。しかし、そこに私情を挟むのであれば……」
「黙りなさい、二人とも」
ディークが手を伸ばし制した。二人とも、素直に黙る。ディークの命令は絶対。
「いいですか?四天王の指輪を貴方達に託すのは、私があなたたちを認めているからです。我々の領地で、一番、二番を争う実力者と言ってもよいでしょう。受け取りなさい。四天王の指輪を」
ディークの水色の眼。輝いている。引き込んでいる。その瞳に吸収されるように、イルゴールとヴェルゼは、手を伸ばした。
「ここに天の刻印あり。聖女ディークの名の元、この者たちに力を与える。ミドガルズ……ミドガルズ……」
銀色の、四天王の指輪が輝く。それを握っているだけで、力が湧いてくるのを、イルゴールとヴェルゼは感じていた。
ヴェルゼの心境。
「(こいつはいい。さて、泥船からいつ脱出しましょうかね)」