フランシスカの回転
フランシスカ一行は、急ぎマリアンヌの援護に回るべく、進軍し始めていた。目的地はマリアンヌ領。
移動時間も、無駄に出来ない。フランシスカはホウオウ、そして、ほぼ参謀となっているシュクレと話し合っていた。
「ホウオウ、マリアンヌの勢力が狙われている今、私たちに施しをくれた彼女を、見捨てるわけにはいかない。私たちの思想と、外れてしまう……第四聖女ディークが、マリアンヌを狙うというのなら、私たちはディークと戦わなければならないわ。けれど、説得が可能かもしれない」
端的に、フランシスカの言葉。それを受けてシュクレ。
「……厳しいのではないでしょうか。私の知っている情報なら……第四聖女ディークは、冷酷です。かつては優しかったそうですが、追放されてからというもの、国王に恨みを募らすばかり。次第に、冷酷になっていったと聞いています。マリアンヌ様からのテレパスの通り、赤い牙と繋がっているという話も聞きます。フランシスカ殿、後手に回ってはいけません。戦うことは悪い事だという話も、わかります。しかし、この地で起こっているのは、見紛うこと無き、争いごとなのです。綺麗事だけでは、事は収まりません」
「わかっています。私の勢力だけなら、私たちの責任。しかし、マリアンヌも加われば、危害が及べば、守る一択。戦いになれば……私たちは応じるしかないでしょう。それを避けるためにも、今この移動時間の最中、考えておくべきです。協定へ持ち込める条件を」
語るフランシスカ。話しながらも、彼女の思考は回転している。
気になる点。
「シュクレ、どうして第四聖女ディークは、マリアンヌを狙っていると思いますか?やはり、ガラハの森の、取り逃がした敵でしょうか。スケッチがディークの手に渡り、私とマリアンヌが協力していることが見透かされた。そして、聖女同士の結託を恐れた聖女が、先手を打とうとしている、この辺りでしょうか」
「おおよそ、当たっていると思います。スケッチをしていた人物は、明らかに明確な意思を持って行動していたはずです。それを考えれば、スケッチの人物が、聖女勢であれ、赤い牙勢であれ、とにかくディークがスケッチを手にした。マリアンヌ様が危ないのは間違いないでしょう。それ以上に痛いのが……」
シュクレは二本、指を立てた。
「切れるカードの数です。聖女が聖女たる所以。特別な力。マリアンヌ様はテレパスの能力がありますし、フランシスカ殿には、見せて頂いた、聖魔の石による治療の術がある。ですが、この二つの能力……交渉に使えないのではないか、そう実直に思います。テレパスが使えます。治療が出来ます。この二つで、相手の心を動かせるでしょうか?」
「ふむ」
一理あり、といった様子で考え込むフランシスカ。確かに、この二枚のカードでは厳しい。ナイムのように、相手に対して干渉力の高い能力ではない。言ってしまえば、ほとんど役に立たない。
しかし、だからこそ考える。カードが発動する条件を。
「ディークに、どうしても治療してほしい人が、いるとしたら?」
「む?」
「交渉材料です。ディークに交渉するには、私の聖魔の石の力を用いるしかないと判断しました。もし、もしディークが、治療を望んでいるとすれば、交渉の芽はあります。どうしても治してほしい人を、私が治す。その代わり、私とマリアンヌの協定に加わり、国王に反旗を翻す。冷酷ということは、判断力はあるということです。短所に見える長所。相手に寄り添わなければ、交渉など出来ようはずもありません」
「その条件が揃えば、あるいはいけるかもしれませんね。しかし、そう上手くいくものか」
シュクレは唸った。フランシスカの仮定が当たっていれば、確かに上手く歯車が回りだす。アクドラを変えうる歯車に。