フランシスカは慕われるか
フランシスカ達は、ホウオウと別行動となり、入口左方面の、兵舎へと向かうことにした。フランシスカに、緊張感が無かったわけではない。むしろ、緊張していたと言える。
どれくらいの、部下がいるのか。多いに越したことは無いが、多すぎても困る。しかし、国王の性格上、フランシスカに部下を多く与えるかと思うと、否、と判断する彼女だった。
兵舎へ。白い廊下を抜け、緑が見える兵舎へ。
パッと、開く視界。多くの緑に囲まれている兵舎で、白色の甲冑を着ている集団に出くわした。国王から、白い甲冑の部下を用意したと言われていたので、フランシスカは安堵した。
見回す。兵士の数、おおよそ百人といった所だろう。
その全てが、フランシスカの方を見ている。彼女の存在に気づいたからである。
兵士たちは、国王にとって、いわゆる厄介者の扱いを受けていた存在であった。フランシスカを慕っていたが、解雇された者たち。フランシスカに世話になった者たち。
いずれもが、フランシスカに対して忠義の心を持っていた。
「フランシスカ様だ!!」
一人の兵士が叫んだ。どことなく、強そうである。兵士たちは、フランシスカに対して膝をついた。
頼もしさを覚える、フランシスカ。懐かしい。
「みなさん、顔をお上げになってください。貴方達が私の配下になってくれるのは、とても頼もしいことです。私たちは、いわゆる運命共同体。さあ、顔を上げて」
「ハッ……フランシスカ様。私どもは、あの国王を許すことが出来ません……私たちを支えているのは、フランシスカ様への忠誠と、国王への恨みです。恨む私たちを許してください」
「あの国王を恨むのは、当然です。悔しい思いをした者も、いるでしょう。私もその一人です。だから……私は、国王に反旗を翻します。国王を打ち取るのです。そうすれば、あの国の内政は、もっと良くなるはずです。しかし、そのためには、聖女の力をまとめ上げなければなりません。私自身も、聖女足り得る行動を取らねばなりません。ミリアム。ナイム。イグラシル。ディーク。マリアンヌ。この聖女達と共に戦う術を、探さなければなりません。聖女同士が争っても、それこそ国王の思うツボ。人の不幸を喜ぶ、いかにも国王らしい思想が、透けて見えます。だから、私は聖女であり続けたいと思います。追放されたとしても。心持ちだけは、欠かすわけにはいきません」
「フランシスカ様は聖女です。それは、間違いありません」
「ありがとう。状況をまとめます。食堂は、この人数を収容出来ますか?」
「可能です。私たちは……私たちは……」
兵士の一人が涙を流している。国王に、辛い仕打ちを受けた兵士。
「フランシスカ様!!フランシスカ様、万歳!!」
兵士は堪えきれずに泣き出した。
フランシスカの心が動く。自分の聖女としての行いは、無駄ではなかったのだと。
泣いてくれる人がいる。追放された時は、もうどうだっていいとう気持ちだったが、自分に救われた人たちがいるのだと、認識したのだ。
兵士たちの先に、幸がありますように。フランシスカは、静かに祈った。
そして、先導して食堂へ向かった。着物を翻すその姿は、まさに聖女、あるいは指揮官に相応しい振舞いだった。
食堂にて。ホウオウが、もぐもぐと肉を食べていた。かわいい子である。
気配を察知出来るホウオウは、フランシスカが配下を連れてきたのだな、と察していた。
実際、配下はフランシスカに続いて、ぞろぞろと食堂へ来ている。シュクレもいる。
「フランシスカ、配下は……百人ほどか。思っていたより多いんじゃないか。十人くらいじゃないかって心配したぞ」
もぐもぐしながら語るホウオウ。食べるのか話すのか、どっちつかずである。
「頼りになります。私の見たところでは、この人数は、マリアンヌの勢力を上回っています。これなら、マリアンヌが困っていても、助けられるはず。この兵力を元に、マリアンヌとの合流を果たしたいところ、だけれど……」
「どうした?」
「マリアンヌの紫水晶から、テレパスが飛んできていない。これを、何も起きていないと取るか、何かが起こっていると取るか……」
「もしや、裏切ったのでは?ガラハの森を通ることを知らせたのも、もしかするとマリアンヌが……」
「シュクレ、口を慎みなさい。確かに、一度試されはしました。しかし、私たちはマリアンヌに施しを受けている。マリアンヌへの侮辱は私が許しません」
「ふむ」
シュクレは不服そうだ。大してマリアンヌの護衛兵は、気分が良さそうである。それは、そうあろう。自分の主を肯定されて、喜ばない配下はいない。
その後何が起こったのかというと、食堂で、飲む食べるの大パーティーだった。
勿論、フランシスカはただ騒ぎたかっただけではない。皆の意志が一致するために、敢えて交流会を開いたのである。兵士たちは騒いでいる。ホウオウはもぐもぐと食べていたし、シュクレも静かに飲み物を口にしていた。マリアンヌの護衛兵たちも、落ち着いた様子であった。
兵士たちの士気は最高潮だった。なにせ、慕っているフランシスカが目の前に現れたのだ。それに加え、国王に反旗を翻すという言葉。それは、兵士たち全員の望みであり、諦めていたことだったから。フランシスカの強い言葉に、この方に付いていこう、そう兵士達は思っていた。
場が盛り上がった所で、フランシスカが葡萄酒を手に取り、かざした。酔うわけにはいかなかったので、ごく少量だったが。
「皆の者!我々の始まりに、乾杯!」
フランシスカの合図とともに、食堂に兵士たちの声が響き渡った。
戦える。その連帯感が、フランシスカ達を結んでいた。




