特筆すべき懸念点
フランシスカ達は、ようやくフランシスカ領への境まで、やってきた。
ガラハの森を抜けたこともあり、景色は爽快だった。緑あふれる、自然豊かな土地だった。道の先には、砦のようなものが見えたし、きっとそこがフランシスカの砦なのだろう。人影は、フランシスカ達以外には見当たらない。白い砦に向けて、フランシスカ達は一直線に進軍した。食料も、まだ残っている。ホウオウはもう疲労から回復している。というより、そもそも疲労しなかったと言える。彼女はタフである。
そして、フランシスカ領の砦に、一行はあっさりと辿り着いた。なんの妨害も無し。
砦の外観は、端的に言えば、美しい。まだ真新しい建築材が使われているようだったし、白い色には汚れがほとんど付いていない。青い屋根は白い建物に良く似合っていて、いかにも立派であった。
フランシスカ一行は、砦の中に入ることにした。ようやく、念願の領地に辿り着いたのだ。フランシスカも、冷静さは保っていたが、安堵を感じていた。
中に入った彼女たち。赤い絨毯の廊下が、目の前に伸びていて、甲冑の人形が絨毯を囲んでいた。砦というより、城と言えるかもしれない雰囲気だった。
入口から見て、右側への通路が食堂、左側に向けての通路が、会議室のようだった。入口に見取り図がある。
フランシスカがそこで何を選択したかというと、まずは食事を採るということだった。なにせ、激しい戦いもあった。ホウオウも、シュクレも、マリアンヌが授けてくれた護衛達も、皆、疲れているはず。そういう察しがあったからだ。
そのために、まずは砦内にいる、自分の戦力を確かめなければならなかった。国王から徴兵された戦力が、砦の中にいるはずなのである。
「ホウオウ、私は砦内の部下に、連絡を取ってみます。その間、食事をしていてください」
「フランシスカ抜きで、か?」
「そうです」
「それは出来ないな。危険すぎる。もしも、部下が反旗を翻してきたら、どうするんだ?」
「ホウオウ、それは心配のしすぎよ。危険な出来事がたくさんあったから、気が立っているのよ。大丈夫、これでも私は聖女。部下をまとめ上げてみせる。あなたは、戦いすぎた。休んで、お願い」
「お前のことが心配なんだ」
「嬉しいけど、ホウオウ……」
そこに、シュクレが割って入った。
「私がフランシスカ殿に付きましょう。様々な出来事がありましたが……私は、ある程度知識があります。話すときに、役立つ情報を話せるかと。部下とのコミュニケーションは、私とフランシスカ殿に任せて、ホウオウ殿は休んでください。これは冷酷に言うと、戦術的配慮でもあるのです。あなたは強い。おそらく、フランシスカ殿の勢力で、一番の腕利きでしょう。あなたが消耗するのは良くない。敵に対抗出来なくなります。休むのは、自分のためだけではなく、戦術的配慮です」
「……わかった。フランシスカのためになってくれ。シュクレ」
ホウオウはこくこくと頷いた。彼女は馬鹿ではない。シュクレの言い分から、必要な部分を汲みだしていた。
マリアンヌの授けてくれた護衛達は、私もフランシスカ様の護衛をさせてくださいと、申し出てきていた。
最初は、マリアンヌの部下なのに、フランシスカに付くことが不満のような護衛達だったが、行軍する中、フランシスカの優しさに触れ、フランシスカを慕うようになっていった、マリアンヌの部下達。フランシスカは、そんな彼らを頼もしく思った。
「フランシスカ様、私たちも、貴女の護衛に回ります。私たちは、ホウオウ殿に比べれば、何もしていないに等しい。お願いします。フランシスカ様の役に立ちたいのです。貴女の優しさは、まさに聖女。聖女たる器の持ち主です。休憩など不要。いざとなれば、私たちが盾になります」
「あら……それは、嬉しい言葉。だけど、休んでください。貴方達は、本来マリアンヌの部下のはず。無理をして、私に付き合う必要はないのです。あちらに食堂があるようです。英気を養ってください。私たちは、生きているのですから」
「そうはいきません」
頑なに拒否する、マリアンヌの部下たち。そんな彼らを、フランシスカは愛おしく思った。優しい人たち。そういう印象。
結局、フランシスカ達は、ホウオウを除いて、全員で砦内の部下達に会うことにした。
懸念点。紫水晶から、マリアンヌのテレパスが届いていない。




