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ここに六つの聖女を立て、お前を殺そう。国王。  作者: 夜乃 凛
第二章 第五聖女との邂逅

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協定殺しのスケッチ

 フランシスカ達は、ガラハの森へと入った。空は明るく、ガラハの森も、ある程度見通しが良い。迷子になる心配は無さそうだった。地面には、茶色い葉が大量に落ちている。そして、燦燦と広がる林。

 先頭を歩いているのは、ホウオウだった。否定殺しと遭遇したこともあり、フランシスカ一行に、緊張感が生まれていたからである。この中では、ホウオウが一番強いのだ。


 彼女たちは、順調にガラハの森を進んでいた。そう、途中までは。

 歩いている最中、周りを警戒しながら歩いていたシュクレが、何かに気づいた。

 葉っぱが転がっている。それはいい。しかし、問題なのは、その葉っぱに足跡がついていたことだった。即座に知らせる。


「フランシスカ殿、地面に足跡がついています。誰かが通ったのでは?」


 その言葉を受け、地面を見るフランシスカ。確かに、足跡がついている。しかし、その足跡は、先からこちらまで伸びていて、途切れている。

 どういうことかと、フランシスカは考えた。何故、途中で途切れるのか?

 その答えは単純だった。待ち伏せされていたのである。

 最初の敵の攻撃は、見えない位置からの石弓だった。

 速度の速い石弓。それが、フランシスカ達の隣を通過した。命中率は高くない。

 周りを素早く見渡すホウオウ。敵の姿は無い。


「知ること全能の如く」


 ホウオウが呟いた。彼女から見える景色に敵はいないが、敵の気配が十人。

 逃げ切るのは難しい。そう判断した。待ち伏せされているし、後ろにも敵の気配が突然現れた。

 無力化などと言っている場合ではない。襲い掛かってくる者は殺すしかない。

 戦力はホウオウと、マリアンヌの護衛部隊。シュクレは強くはない。護衛部隊に対する指揮権は、フランシスカが持っていた。彼女は、頭の回転が速い。

 フランシスカは高速で思考を回していた。圧倒的挟み撃ち。ガラハの森を通ることが、何故か知られている。確実に読み切られている。

 戦法を考える。まず、敵の姿が見えない。ホウオウなら察せるだろうが、他の者たちが、敵の姿を知る方法はない。とにかく、敵の遠距離攻撃が厄介。しかし、護衛部隊もいる……。

 彼女は、防衛策を取った。護衛部隊全員で壁を構築し、守備に徹する。攻撃はホウオウ一人に任せるという策。すぐに、その旨を部隊に告げた。


「殺してもいいのか?」


「構いません。これは明らかな宣戦布告」


「わかった。死なないでくれよ」


 そう言うと、ホウオウは、敵の気配目掛けて、飛び込んでいった。ホウオウなら死なない。後は、自分たちが身を守り切れるか。そこが重要なポイントだった。


 警戒。何せ、敵の姿が見えない。護衛の者たちは立ったまま臨戦態勢でいたが、護衛の者の一人が、フランシスカに、身を低くするように進言した。敵の武器が遠距離なのだから、当たる確率を下げなければならない。


 フランシスカを囲う護衛部隊。ホウオウは感性を研ぎ澄ませた。この攻撃してくる人物たちが、聖女達の手によるものだとしたら、聖女同士の和解案は、ご破綻になるだろう。殺し合いが始まってしまったのだから。

 考えなければならないことは山ほどある。何故、フランシスカの動きを先読み出来たのか。しかし、ホウオウは、それらの感情を捨てて、機械になった。敵を滅するだけの機械。


「一人ずつ」


 ホウオウが呟いた。文字通り、一人ずつ殺す。

 囲まれてはいる。だがしかし、強いオーラを感じない。十人に囲まれていようとも、勝てる自信がホウオウにはあった。

 問題は……。


「フランシスカ様、私どもが盾になります。任せてください」


 頼もしく言う、マリアンヌの部下達。彼らは盾を持っている。丁度、フランシスカを四方から囲んでいる形である。

 だが、シュクレがフリーなのだった。彼はさほど強くはない。

 フランシスカは、当初の思惑通り、不殺を貫くことも、当然考えていた。しかし、シュクレの傷などを見ているうちに、不殺だけでは勝ち得ないものもあると、痛感した。例え聖女と争うことになろうとも、戦わなければならないことが、ある。それを、シュクレのアジトで感じたのだ。


 ヒュン。石弓が飛んでくる。

 直撃せず。フランシスカ隊の真横を通過。

 ホウオウは敵に向かっている。もう二人は切り殺している。

 後に引けない。もう、戻れない。この敵の手先が、聖女の部下だった場合、その聖女とは戦いになるだろう。

 紫水晶のテレパスは動かない。何も鳴らない。当然だ。マリアンヌから、こちらの情報は見えていないのだから。

 唇を噛むシュクレ。何故かと言えば、彼が戦力になれないからである。歯がゆい思いをすることになっている。


 運で石弓を避けることは出来てはいるが、直撃も時間の問題だった。フランシスカの持つ聖魔の石の力は、とても強い。負傷を治せる。だが、死んでしまった人間は治せない。万が一にも死者が出てはいけない。


 ホウオウに全てがかかっている。彼女は、冷静に敵を切り殺していた。あるいは、衝撃波で。

 人殺し。言ってしまえばそうである。敵を殺しているのだから。

 それでも、ホウオウはフランシスカに報いるために、出来る限りのことをしてやりたかったのだ。自分を奴隷の身分から救ってくれた、フランシスカのために。


「風立ちぬこと流氷の如き」


 ホウオウが呟いた。冷たい風が吹く。

 敵の集中砲火は、今はフランシスカ達に対してではなく、ホウオウに向いている。その敵軍の攻撃を、ホウオウは全て薙ぎ払っていた。

 一人生け捕りにする。彼女はそう考えていた。意味はある。敵の意図、そして、どこの勢力に所属しているのか。当然、聞き出さなければならない。だがしかし、攻撃が熾烈なのも事実。誰を生け捕りにするか?


 ガラハの森の中である。林の大地を利用して、ホウオウは飛び回っていた。木々に剣を刺し、その反動で、高速で飛び回っていた。

 殺傷。殺傷。十人いた敵勢力も、いまや残り二人となっている。ホウオウは八人殺したことになる。

 殺すことに抵抗感が無いわけではない。しかし、ホウオウは研ぎ澄まされた感性で、それらの感情を打ち消していた。

 修羅にならなければならない。フランシスカを守るためなら。

 残り二人。どちらを仕留めるか。

 見る。目視。二人のうち、片方が強者。もう一人は、大したことがない。射撃の正確性も欠いている。

 どちらを狙うか。ホウオウは、強者を残すことにした。リーダー格の可能性があったからである。

 決めた瞬間、投石が来た。


「緑降ること雨の如く」


 林の葉の乱舞で投石を無効にし、ホウオウはまた一人、切り殺した。

 残りは一人の強者。一対一である。

 ここで、ホウオウが下がる。まずフランシスカ達を確認。被害者は出ていない。

 強者が、やけっぱちでフランシスカ達に狙いを変える可能性もある。だが、それでもホウオウは攻めず。待機の構え。

 何故か。ここで特攻してくるか、何者かに報告しに行くか、知りたかったからである。

そしてもう一つ、迂闊に攻めてはいけないという直感が、ホウオウを潜在意識で止めていたのだ。

 強者。ただの強者ではない。『ホウオウから見て』強者なのである。となると、普通の次元で強い人物ではない。ただの雑魚ではないのだ。

 待つホウオウ。

 対して、強者は、仕掛けてこない。

 ここでホウオウがピンと来た。速攻でフランシスカの元に戻ったのである。

 時間稼ぎ。その可能性が浮かび上がったからである。

 何か。何かを狙っているのだ。

 フランシスカの元へ戻ったホウオウが、辺りを感知。

 すると、いる。十一人目の敵が。敵が、『スケッチ』をしている。

 いけない!

 ホウオウはそう判断し、速攻で、スケッチをしている敵兵を殺そうと飛び上がろうとする。

 だが、ここで強者が動く。細長い刃を取り出し、ホウオウに向かってきた。

 ホウオウと同じく、木に刀を突き刺し、飛んでいる。ホウオウが止むを得ず、それに応じた。向かってくるなら倒すしかない。

 何故、スケッチがいけないのか?それは、マリアンヌの部下と、フランシスカが一緒に居る所を、直接描かれてしまうから。二人の協定が、バレてしまうことになる。どの勢力なのかはわからないが。

 どの勢力か。聖女か赤い牙の二択である。聖女であれば、情報を欲しがるだろうし、赤い牙であれば、聖女にスケッチを売りつけるという選択肢が考えられた。

 だが、それどころではない。ホウオウと強者の死闘は始まっている。

 お互いの実力など、ホウオウクラスになれば、わかる。自分の方が、やや勝っていると評価したホウオウだが、それはつまり、少し油断すれば、その差はひっくり返ることも意味していた。


「無惨なこと廃墟の如し」


 ホウオウが構えを取った。いかなる苦痛を与えても、勝つ構え。


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