反逆の一手
フランシスカは、マリアンヌの言葉を、察しながら聞いていた。聖女としての苦悩。それを思いながら。
「マリアンヌ様……お気持ち、お察しします。あの国王に裏切られて、さぞ、悔しかったことでしょう。それは私も同じこと。マリアンヌ様の気持ちが、ほんの少しはわかるつもりです。そこで……お願いがあるのです。私はまだ、アクドラの全貌を掴めてはいませんが、『共闘』をお願いしたいのです。それが、私の望みです。聖女同士で争って死ぬか、あの国王に、ともに反旗を翻し、国に戻るか。聖女全員が終結すれば、それも可能ではないかと思うのです」
フランシスカの言葉には力があった。マリアンヌは俯いていた顔を上げた。
「それは、難しいのでは……あの国王は、確かに許せません。しかし、確かな武力を持っているのも事実です。聖女でも、厳しいのでは。ミリアムとナイムが、勝てないくらいですから……」
「ミリアムとナイムと、会ったことがあるのですか?」
「いえ、直接には。部下が接触したことがあるくらいです。森で戦いがあって、その偵察をしていた部下達です。あの二人にどんな因縁があるかはわかりませんが……とにかく、ミリアムとナイムは強いのです。彼女らが国王に勝てないのであれば、それはもう、勝てる道理は無いでしょう」
「二人について、詳しく尋ねても構いませんか?」
「はい。ミリアムは、私の知るところ、魔法の鏡を持っているようです。全ての情報は知りませんが、過去にそれらしき文献を読みました。効果が……能力を、反射するのです。特別な魔術や道具がありますが、ミリアムはきっと、不思議な物の類を無効に出来る力を持っています。その上で、魔術を使うことも出来る。まさに、守りに硬し、攻めるに強しです。私のテレパスも無効にされるでしょうね……」
「鏡」
フランシスカは思案した。それが本当なら、厄介だし、逆に厄介ということは、国王との戦いで、とても有利になる。情報が欲しいから、続けるフランシスカ。
「ナイムについては少しは知っていますが、ナイムはどのような力を?」
「それが……」
「?」
「剣の腕は確かです。しかし、部下達に聞いたところ、戦い方が変だったと口を揃えて言います。ミリアムと戦っていたわけですが、誰も殺していないようでした。しかし、ミリアムに一直線に向かっていったというのは、確かなことです」
「不殺、ですか?」
「はい。ナイムの思想はわかりませんが、彼女の正義なのかもしれません。フランシスカ様が追放される知らせが無ければ、私は、ナイムの所に、勇気を出して訪れる気持ちでした。正しい行いだと思ったものですから」
「ふむ……ミリアムの方は、どんな動きを?」
「容赦なく魔術を使っていたと聞きました。ただ、被害者は少なかったようです。ナイムを狙い撃ちにしていたようですね」
「お互いに、本気で殺しあっている様子ではないようですね」
フランシスカは目を閉じた。少し考え込む。ミリアムとナイム。説得の余地があるかどうか。そこから思考を切り替え、現状を見ることにした。戦力は、自分とホウオウと、信頼出来るかどうかはともかく、シュクレしかいないのだ。
マリアンヌと手を組むことが出来れば、マリアンヌの手勢も、まとめてフランシスカの味方であると言える。これは、大きい。何せ、フランシスカはまだ、自分の領地に到着していない。領地には少数の人員が国から与えられているはずだが、その規模が不明なのだ。
フランシスカは、軽く紅茶に手を伸ばした。ホウオウとシュクレも、何か食べている。
「マリアンヌ様、同盟を結ぶとしても、どのような内容にしましょうか?私は、あの国王に反旗を翻すつもりでいます」
フランシスカがカードを一枚切った。国王に反旗を翻す気持ちがあるというカードを。
マリアンヌは怖気た。
「それは……勝てないのではないでしょうか……私も、あの国王を憎んではいますが……声を大にして、反旗を翻すなどと、とても言えません。バレたら潰されます」
「なら、私のサポートをしてくれる、というのはどうでしょうか?マリアンヌ様は、国王にバレずに、密かに私の手伝いをしてくれればいいのです。反旗を翻すのは、あくまでこの私、フランシスカです。私が潰されても、マリアンヌ様は生き残ります」
フランシスカの言葉には、一点の曇りもなかった。それは、彼女が、国王を倒さなければならないと、決意していたからである。
「……バレない形での協力なら、することは可能です」
マリアンヌも紅茶を啜っていた。表情は暗い。
「ありがとうございます。握手を」
フランシスカは、マリアンヌに左手を差し伸べた。マリアンヌはそれに応じた。
一蓮托生とは言わないが、誓いの握手であった。ホウオウとキルシュは、立場上、傍観している。
「聖女フランシスカの名の元、貴女を信じることを誓います」
「聖女マリアンヌの名の元、貴女を支えることを誓います」