『見ただけで殺す』
シュクレの言葉を、フランシスカとホウオウが聞いていた。驚きの表情である。
「ホウオウが、勝てない?」
フランシスカが表情をそのままに言った。
「そうです。第二聖女ナイムは、剣豪です」
「しかし、ホウオウの腕前は見ましたよね?この子が負けるなど、考えられません。強敵なのはわかるとしても」
「ナイムは、強力な術を持っています。何か、発動の代償があるようですが……。恐ろしい剣術です。『認識した相手を殺すことが出来る』、そういう剣豪です。フランシスカ殿も、何か道具を持っていますよね?ナイムも持っているのです」
「視界に入った時点で、切り殺されるということか?」
ホウオウの表情が険しい。
「はい。確定事項ではありませんが、そういう情報があります。ナイムの剣がある故に、ホウオウ殿の実力でも、殺し合いでは勝つことが出来ません」
「ふむ」
ホウオウは腕を組んだ。戦闘をいくつか、脳内でシミュレーションしている。フランシスカも考えていた。
「それは、逆に」
フランシスカが左手の指を上げた。
「ナイムは、人を殺してしまう呪いにかかっている。そう認識出来ませんか?」
「ふむ?」
シュクレが首を傾げた。
「認識した相手を殺せるのであれば、仲間すらも殺せるということになります。例えば、殺す気はなくても、仲間にイラついてしまった時、ふと、殺してしまう。そんな可能性がある。それは、多大な精神的負担……ナイムの身になってみれば、その剣、呪いかもしれません」
「なるほど。それで?」
「まずは領地に向かうのが先ですが、ナイムとの交渉の余地はあると思います。それは私の持っている聖魔の石が、ナイムの」
「待て」
語るフランシスカをホウオウが制止した。
フランシスカも気づいた。背筋がピリリとした。
「どうしました?」
シュクレが疑問そうに言った。
「聖魔の石の情報は明かせない。例えシュクレでも、我々はまだ知り合ったばかり。ここで大事なカードを切るわけにはいかない」
ホウオウがフランシスカの代わりに言った。
しかし、シュクレは頷いた。
「賢明な判断だと思います。私が貴女達と同じ立場だったら、同じことを選択するでしょう。身を守るために、切り札は温存しておくべきです。聖魔の石という物があるということだけ、覚えておきます」
「察して頂いて、感謝します」
フランシスカが頭を下げた。
「構いません。さあ、歩みを進めましょう」