傷の痛みと酸化
三人はアジトを出た。シュクレは、必要な書類の情報が頭に入っていたらしく、手早く荷物をまとめていた。いくつかの水、干し肉、乾燥したレモンなどを持ち、フランシスカとホウオウのための馬を用意して、出発した。
シュクレは優しく微笑んだ。
「アクドラでは、乾燥した土地が多いせいか、乾燥したレモンが美味しいんです。目覚ましに良いですよ」
まるで、仲間を失った気持ちを隠すため、無理に振舞っているようだった。
「それは、美味しそうですね」
フランシスカが返す。なんと声をかけてあげたら良いのか、迷う彼女。
「アクドラも、完全に捨てた地ではないので。いや、むしろ、復興する可能性が高い土地だと思っています、私は。元聖女が一丸となれば、この国にも平和がもたらされることでしょう」
「勝算はあるのか?」
ホウオウが尋ねた。重要なところである。
「あります。確かに、第一聖女ミリアムが暴れているなど、厄介なところはあります。しかし、元を返せば、彼女たちの境遇は、全て本国の、追放という仕打ちによるもの。心の底では、本国に復讐したい聖女が多いはず。その心を掴む。五人の聖女、そしてフランシスカ嬢を交えた六聖女で、同盟を組むのです」
「理想はわかるのだが……理想論じゃないか?それが出来るなら、とっくに聖女たちが団結しているんじゃないか?それに……シュクレの部下を殺したのも、正体不明なものの、聖女の部下なんだろう?そんな相手を、許せるのか?」
「ホウオウ殿、それは未確定情報です。荒れたこの国では、金さえ貰えば、なんでもやるという集団がいます。『赤い牙』という集団です。私は、そのようなことは看過出来ませんが、赤い牙は違う。私たちの勢力が邪魔なのです。だから、私たちを潰すために、手下を仕向けてきた採算があるのです」
「赤い牙……か」
ホウオウは呟いた。フランシスカの方を見る。
「それは、許しがたい存在ですね。命を軽く見ている、荒くれもの……聖女達は、赤い牙の集団を、許容しているのですか?」
尋ねるフランシスカ。
「今の所、全ての聖女が、中立的な立場です。心の底では、赤い牙という集団に対して、否定的な面がありそうですが、公に赤い牙が敵と公言してしまうと、自分の領地のみ、赤い牙と戦うことになる。他の聖女の存在も考慮すれば、挟み撃ち。硬直状態というのが、現実です」
シュクレは俯いている。打つ手の無さを意味している。
フランシスカは、赤い牙を共通の敵と認識すれば、聖女がまとまるかもしれないと思ったが、口には出さなかった。赤い牙の被害にあったシュクレの目の前で、口にしたくなかったからである。
「レモンをどうぞ」
シュクレが、乾燥したレモンを、フランシスカとホウオウに差し出した。