埋葬
シュクレのアジト内の敵は、殲滅された。敵の兵が五人。そして、シュクレの部下は殺されてしまい、六人の死体が横たわっていた。その姿を見て、シュクレは痛ましく思った。
地下だが、天を仰ぐ。
「すまない」
死んでしまった仲間に対する、シュクレの言葉だった。ホウオウは、もう周りを警戒していない。
「全滅なのか?」
ホウオウがシュクレに尋ねた。
「ええ、残念ながら。申し訳ありませんが、ここを出なくてはなりません。アクドラの詳しい話をしようと思っていたのに……この惨状では、逃げた方がいいでしょう、ここから。良い仲間たちでした。私が、ここに留まっていた方が、良かったのかもしれない。しかし……こんなことが」
「死体を、埋めてあげましょう。私も手伝います」
フランシスカは目を伏せながら言った。
「ありがとうございます。……これが、現実です。この国では、このようなことがまかり通る」
「埋めてあげよう」
ホウオウが言った。
三人は、アジトの外に、仲間の死体を担ぎ出した。当然、敵がいないことを確認してからの作業である。
ゆっくり、ゆっくりと、死体を埋葬してやった。シュクレはもう立ち直っている。いや、そう見える。彼はポーカーフェイスなのだ。どんな心境なのかは、奥の奥。
死体を埋め終えた三人は、アジトの中へ引き返した。敵の死体は放置されている。
その死体を見下ろしながら、フランシスカが語る。
「この兵士たちが、誰から送られてきた人物なのか、わかりますか?シュクレ」
「率直に言うと、わかりません。手がかりは、一様に白い装束、そして、斧使いということだけ。これだけでは、誰の部下なのかは特定出来ません。所持品を調べますが……おそらく、簡単には特定出来ないでしょう」
「調べてみてもいいのか?」
ホウオウが言った。彼女は、死体には慣れている。
「どうぞ。私も加わるべきですが……すみません、少し休ませてください」
「大事に」
シュクレを気遣うホウオウ。優しさの片鱗。
その間、フランシスカは何をすべきか考えた。仲間を殺されたシュクレの心境を思うと、あまり迂闊な行動には出てはいけない、そう思った。敵を追撃することも大事だが、人の心というのは、かけがえのない大切なものなのだ。シュクレの心が痛むのを、フランシスカは、見過ごすわけにはいかなかった。
「シュクレ殿、我々は後回しでいいです。ご自分の心の整理を」
フランシスカは、そう言い出した。シュクレを気遣ってのことである。
しかし、シュクレは辞退した。
「いえ。死んでいった仲間たちのためにも、やらねばなりません。必ずや、この国を平和にすると、私たちは誓ったのですから。……こうなった以上、他のアジトも危ういでしょう。申し訳ないのですが、フランシスカ嬢にあてがわれた、領地を使わせていただけませんか」
「勿論です。どんな場所かは、行ったことがないので、わからないですが……少なくとも、他の聖女に侵略されたりは、していないはずです。あんな国王とはいえ、権力は強いですから」
「ありがとうございます。このアジトから……必要な資料を、最小限にまとめて、持って頂かせていただきます。このアジトにお招きしたいと思ったのは、他の聖女の情報を知ってもらうためですから」
「なるほど。では……私の領地に、持っていきましょう。今回は、私が先頭を歩きます。シュクレ殿は、後からついてきてくだささい」
「かたじけない」
シュクレは頭を下げた。彼の傷ついた心に、フランシスカの言葉は、優しく染みるように、響いた。