表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

人形との別れ

「おつかれサマ!」


 佳樹と曽良は、他のドール達の乗る車に拾われ、三列シートの真ん中に座り込んだ。


「いや〜大っきい仕事が終わったね〜」


 後列のディランからハットとバングルを渡してもらい、二人はそれぞれ満足気に身につける。


「お前らさァ、毎日病院来るじゃん?いやマジ、ずっと寝てんの身体凝るんだよ。温泉行きてェ!」

「うわ、いいねぇ〜」


 達成感に浸る中列の二人に対し、叶楽がルームミラー越しに曽良と佳樹に視線を送る。


「いや……感傷中に申し訳ないんだけどさぁ、この車今、成田向かってるからね」

「は?え?」

「俺らこれからマカオ向かうから」


 はあ~?!とお手本のように曽良と佳樹の声が車内に響いた。


「マカオって、あれ?ディランの友達が確か……」

「ウン。会えるの楽しみ」

「アハっ、観光行くんじゃねェだろ!仕事だよな?!」

「そりゃそうだよ、なんかマコトさんの知り合いが……」


 琉愛が助手席で二人に説明を始めるも、ディランの話が割って入った。


「えぇっそうなの?カジノで豪遊できると思ったのに」

 現地警察に捕まってるから……

「じゃあ……なに?ディランはこれから六人揃って慰安旅行でも行くと思ってたわけ?」

 脱獄手伝うために……

「ウン」

「ねぇ俺って声帯死んでる?!」


 琉愛が声を荒げると、曽良がアヒャヒャ!と同じ声量で笑った。

「ちゃんと聞いてるよ。大丈夫」

 隣で佳樹がこっそり耳打ちする。

「琉愛なんつってた?」


 だから~と佳樹に教える曽良に、運転席から叶楽の声がかかる。


「あ、それで曽良ぁ。俺の造園会社の仕事と曽良の柴犬カフェの仕事も続投って聞いたんだけどさぁ、曽良のバイトってあれも任務だったの?」


「うん。そうだよ~。継続なんだ。承知でーす」


 えええっと五者五様に驚く声が響いた。

「あれ真面目なバイトじゃねぇの!」「ちゃんと仕事してるの偉いって思ってたのに」「お前ふざけんなよ!」「嘘はよくないよ」


「あれ言ってなかったっけ。違法薬物の密売してる疑惑があって潜り込んでるんだけど、中々尻尾出さないんだよね~」

「じゃあそう言えよ!」

「だってマコトさんに口止めされてたんだよ。マネさんの前では言うなって」

「じゃあさ、ついでに一個確認して良い?」


 特に誰かの承諾を得たわけでもなく哀は話を続ける。


「俺のこと『オーディション落ちまくってる役者の卵』って言い方したのもお前か?」


 哀と曽良を除いた全員が吹き出した。やっぱアレ嘘だったんだ、と琉愛がボヤく。


「まあね~。その方が辻褄合うかなって」

「合わねえよ俺のあがり症舐めんなよ」


 ひとしきり笑った佳樹が、あーと渇いた声を出した。


「何だよお前ら嘘吐きまくってんじゃねぇか」


 佳樹の言葉に、各々はここ二年の思い出を振り返る。

 マネと飲みに行った居酒屋も、仕事の合間に立ち寄ったカフェも、話した内容に嘘はなかった気がする。

 大前提に偽りはあっても、その上に築いた関係は本物だったと思っている。


 ふふっと誰かともなく吹き出し、ドール達は笑い合う。

 ドールが六人揃っていること。それだけが自分達の確固たる強さで、それしか誇れることはない。だからこそ、その一つだけを鼓舞して強がって生きているのだ。


「嘘が俺らの武器だから」


 ディランが独り言のように言う。まったく、その通りだと思う。

 そんなドールに休む暇なんてない。次の仕事に向けて、ドールを乗せた車は走って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ