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俺らは揃ってないと意味がない3

 ディランが知人から借りてきたワンボックスカーで、ドール四人とマネは料亭近くのパーキングまでやってきた。

 ここは哀が見つけてきた、ここらで監視カメラの付いていないレアな駐車場だった。


「ディラン、マスクした?外出る時は顔隠しなって」


 いち早く車を降りようとするディランに叶楽が声を掛ける。


「カメラ無い道で行くんじゃないの?」

「ダメだよ。ドラレコ付いてるかもしれねぇじゃん」


 監視カメラはないとはいえ、車にはドライブレコーダーが付いているケースがある。街中を走る監視カメラだ。確かに、と言ってディランはバケットハットを目深に被りマスクをした。


「……ディラン、そのハット……腕に付けてるのも」

「分かる?曽良のハットと佳樹のバングル。部屋から持ってきたの。やっぱりドールは揃ってないと」

「……えーナニソレお洒落なことしちゃって」


 ディランの装いを見ると思わず顔が綻んだ。曽良の頭が小さいのか、ハットは頭から浮いているし、腕のバングルは無理矢理手首を通したのだろう、少し擦り傷が出来ている。


 いつもお洒落なディランにしては不釣り合いに見えたが、本人は全く気にしていなかった。


「じゃあ、オレとディランは先行ってんね」


 叶楽とディランは先行して料亭の駐車場で待ち伏せだ。

 青嶋を乗せた車が到着したところを二人掛かりで捉える。そこへ琉愛がこの車を運んできて、青嶋を乗せて別の場所へ運ぶ算段だ。哀とマネは駐車場の付近で青嶋が来たタイミングを知らせる見張り役である。


 この計画は穴だらけだ。

 もし、青嶋がタクシーではなく、運転手付きの自家用車で来ていたら?護衛が付いていたら?そもそも車で来ていなかったら?

 少し考えただけでも作戦の不完全さが浮き彫りになる。


 チラッと立案者の琉愛を見るが、本人はいたって自信満々に運転席に乗り込んでいる。そういえば、琉愛が車を運転できることだってマネは知らなかった。運転役といえば叶楽か佳樹か曽良だったから、仕方ないといえばそうなのだが。


 頭によぎるのは、沢山の管に繋がれ、辛うじて生命を維持できている佳樹の寝顔と、生気を失った曽良の姿。地域柄なのか季節柄なのか、火葬場が混み合っているとかで、まだ曽良の遺体は火葬できていなかった。不幸中の幸いで、運ばれた病院の霊安室で安置してもらえたため、すがるように毎日ドールとマネは手を合わせに行っていた。


 明日の火葬に、自分達が揃って参列できればいいのだが——過った不安が的中するように、マネのイヤホンに雑音が入った。


『駐……うにとう……く……』


 叶楽の声だと判別はできたが、ザザッと音が途切れて何を言ったのかは分からなかった。

 それは琉愛と哀も同じだったようで、片手を耳に当てて、しまった、と顔を歪めた。


「これって多分さ、駐車場が地下だから通信届かないってやつ……じゃないよね」

「いや、それだろ」


 おずおずと言い出した哀に対してキッパリと言い切る琉愛。


「警備会社の備品とはいえ、貸し出せるってことはおそらくスペックは低いんでしょうね……とにかく、通信できないのは致命的ですね」


 早々の躓きに項垂れるマネだったが、哀と琉愛はいたって前向きだった。


「使えないにしろ、向こうに青嶋が来たことを伝える役目は必要だよね。なら、俺が伝達役やろうか」

「うん。地上にいる分には他の手段で連絡は取り合えるし、哀には叶楽とディランが見えるところにいてもらおう」


 琉愛はタブレットで地図アプリを取り出し、三人が見える位置に置く。

 マネもそれを覗き込み、ふと考え込んだ。


「マネさんは予定通り、この通りを見張っててほしい」


 地図を指しながら、腕時計を確認した哀が「マネさん、俺達も行こう」と腰を上げた。

 しかしマネは顎に手を当てたまま動かなかった。


「……僕、やっぱりここに残っても構いませんか」

 地図から顔をあげ、二人の顔を交互に見る。「通信を直せないか、やってみます」

 哀と琉愛は一瞬だけ困惑したように顔を見合わせたが、すぐに向き直って頷いた。


「分かった。じゃあ俺の代わりに、合図したら車で来てね」


 二人が出て行くのを見送って、マネは通信機の親機と向き合った。耳のイヤホンからは、ずっと雑音が流れている。


 琉愛が示した地図を思い出す。マネの場所と料亭の地下駐車場は、直線距離では五十メートル程しか離れていない。また料亭の地下駐車場は、地下といえども一フロア分だ。


 ……それにしては雑音が激しすぎると思わないか?


 嫌な予感だ。

 物理的な障壁でないとしたら、その雑音の原因は人工的なものになる。例えば妨害電波とか。


 そして人工的にそれを発動させる理由は——計画がバレている?


 背筋が寒くなるのを感じる。いやいやそんなわけない、と頭を振り払う。


 哀と琉愛に連絡を取ろうとして、やめた。今連絡しても、あの四人は止まれない。曽良と佳樹の仇を討つまで計画を進め続けるだろう。

 足を止めて、計画を先延ばしになんてするなんて冷静さは、とっくに捨てているようだった。


 マネにできるのは文字通り船渡しだけだ。

 頼むから、成功して欲しい。四人が生きて帰って来て欲しい。

 マネは車で一人、手を合わせて祈った。


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