勇敢なものだけが生き残れる牢屋。
──その牢屋に入れられた者は、必ずこの世から消え去る。
とある国のとある砦に、そんな曰く付きの牢屋があった。
その牢屋に人や動物を入れると、翌朝には見るも無惨な肉塊となっている。
極稀に翌朝になっても命を保っている者もいる。
その者の話によると、何かが襲ってくるらしい。
「閉鎖された空間で何が襲って来るっていうんですか」
「遺体の傷口からすると、大型の獣だろうって話だぞ?」
誰かが誰にもバレずに牢屋に獣を入れて、翌朝までにまたもや誰にもバレずに獣を出しているというのか? と、王都からやってきた新人の騎士は不思議に思った。
「誰か寝ずの番をして確認とかしないんですか?」
その程度の確認は随分と前からしていた。
見張りがいたり、牢屋に二人以上いると、何故か何も起こらない。必ず一人でなければ、起こらないのだ。
「へぇ……」
「おい、変なチャレンジ精神とか出すなよ?」
「ははっ。しませんって」
「頼むよ? ここで一晩過ごしたら、勇敢だと認められて大抜擢される。なんて噂だからな?」
「そんな噂まであるんですか⁉」
「あぁ。全くもって迷惑な話なんだが、うちの団長が調査の為、一人で牢屋に入って生き残ったもんだから、そんな噂が出てしまうんだよ」
「へぇ……」
砦に配属されて十年目の中堅の騎士は、確かに新人に注意した。
「毎度毎度、見事に引っかかるもんだなぁ」
「ですねぇ。いい加減、公で処罰出来ない騎士をここに送らないで欲しいんですけどねぇ」
この砦には年に一、二回程度、王都から若い騎士が送り込まれる。
彼らは、王都で何かしらの重い処罰対象になったものの、親の爵位などの問題から処分できなかった者達だった。
それらに甘言を囁くのが、この中堅騎士の仕事のひとつである。
「まったく。誰かさんのおかげで嫌な仕事ばかりですよ」
「何だよ……一応は牢屋で何が起こっているかは判ったし、いいじゃねぇか」
「…………はぁ。脳筋め」
数年前、牢屋の噂があまりにも大きくなり、王都で当時若手の中でメキメキと頭角を現していた一介の騎士だった団長が、謎を解明するようにと王都から派遣されてきた。
そこで彼は皆が止めるのを無視し、牢屋に一人で入ったのだった。
「いやしかし、まさか獣だらけの荒野に夜中だけ転移するなんてなぁ。予想外だったな」
「俺的には、あんたが牢屋の中で血まみれで爆笑していた事の方が予想外でしたよ」
「……俺、上司なんだけど?」
「あんたのせいで、『勇敢なものは生き残れる牢屋』とかいうはた迷惑な度胸試しで何人のバカがあの世に旅立ったと?」
「……おん」
「あんたのせいで、『例の場所で内密に処理を』とかで送り込まれて来る、はた迷惑なガキたちの世話は誰がしてると?」
「…………なんか、ごめん」
若かりし日の団長がこの砦を気に入り、当時荒れ放題だった砦の騎士団を取りまとめて団長として着任した。
謎多きこの牢屋と送られてくる馬鹿な貴族令息は大嫌いだが、この団長と過ごす毎日は楽しいと感じている中堅の騎士は、そっと微笑むのであった。
「はいはい、さっさと団長室に戻って書類書きますよ」
「うげぇ。めんどくせ」
─ おわり ─
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