お父様との話と二通の手紙
ギャレット殿下に送ってもらい、家に着いたら、私はお父様の執務室に呼ばれていた。「なぜ、私に呼び出されたか分かるか?」と冷たい声で聞かれる。「分かっています。王太子殿下との婚約破棄、そしてギャレット殿下から婚約を持ちかけられている件ですよね。」当然だが、お父様が私を呼び出す理由などそれしかない。多分怒られるのだろう。「分かっているなら話が早い。元々、オリビアとスティーブン殿下、もとい王太子殿下の関係が良好でない事は知っていた。しかし、まさかあの場で、婚約破棄を告げられるとは…。私の直感が嫌な意味で当たってしまった。」お父様の言う『直感』とは、第六感の一つ。この世界には、『第六感』、『希少体質』の二つが存在する。第六感は、人間が持つ感覚を拡張した物。つまり、人の五感以外の感覚の事。それに対して特殊体質は、文字通り普通の人ではあり得ない体質を持っているということ。ちなみにお父様の『直感』は、自身が感じた感覚、例えば嫌な予感などが八割〜九割ほどの確率で当たるというもの。ただし、具体的な出来事などは分からないのが欠点だ。「婚約破棄に至ったのは、私の責任です。殿下と出会った日に、粗相をしてしまって、それからずっと嫌われていたみたいです。」私は、ありのままの真実を伝えた。お父様はどう反応するかな?「私の意見を言わせてもらうなら、いくら幼かったとはいえ、公爵令嬢が王子に対して粗相をしたことは、問題だ。それは、オリビアが悪い。しかし、この国の王となる者が、幼子の一度のミスを許せないのは、心が狭いと私は思う。その上、婚約をしている令嬢がいるのに、他の令嬢からのプロポーズを受け入れるとは...。」とお父様は呆れ気味に言った。正直、この反応は少し予想外だった。普通なら、公爵家の品位を落とすな!とか、出来損ないの娘が!などと言われると思っていたからだ。私の思っていた以上に、お父様は優しい方のようだ。「小さい頃の事は、とても反省しています。でも、今となってはどうしようもない事だと思います。」王太子殿下の話をこれ以上しても、何の進展も無いと思ったので、話を打ち切ろうとした。「そうだな。しかも、あれだけの人数に知られたら、事態の収束は難しいだろう。分かった、この話はここまでにして次の話をしよう。第二王子殿下の件だ。」そう言われた瞬間、私の顔色が変わったのをお父様は見逃さなかった。「もしかして、第二王子殿下の事が嫌いか?どうしても嫌なら、無理に婚約する必要はないぞ。私としては、若干残念ではあるが...」と心配されてしまった。私は、ギャレット殿下の事が嫌いという訳では無い。婚約破棄されて、傷ついていた私のことを救ってくれた事は、感謝している。でも、婚約者にできるほど好きではない。馬車でのやり取りを思い出すだけで、鳥肌が全身に広がるような感覚がする。この事を直接お父様に言うわけにはいかないし、どうしようか?とりあえず、やんわりと否定してみよう。「ギャレット殿下の事が嫌いという事ではないのです。ですが、少し受け入れ難い面がありまして...」と丁寧な口調で伝えると「嫌いではなくて、受け入れ難いか...。しかし、それは照れ隠しのように感じるな。」と笑い混じりにお父様は言った。私はすぐさま否定して、「そんな事はありません!私は殿下の事が好きではないです!何と申せば良いか、ギャレット殿下は、えっと、その、変わった性癖をお持ちで...」しまった、お父様にありのままを伝えてしまった。一体お父様は、どんな反応を?「もしかして、殿下に何かされたのか?もし、そうだとしたら絶対に許さんぞ!第二王子め!」とお父様が怒りだした瞬間、コンコンと執務室のドアを叩く音が聞こえた。「誰だ?今は、大事な話の最中だから、後にしてくれ。」とお父様は言うが、ドアを叩いた誰かが、「急用です、王家の紋章が付いた手紙が二通来ています。至急、ご確認ください。」と返答して来た。流石のお父様も、王家からの手紙は無視できない。「分かった、入って良いぞ。」と言うと同時に一人のメイドが入ってきた。「こちらは、公爵様とお嬢様宛の手紙です。もう一通は、お嬢様宛の手紙です。お受け取りください。」用が済んだらすぐにメイドが去って行った。「私の手紙は、ギャレット殿下からの物でした。内容は...明後日に公爵邸に訪問したいので、お父様とお母様、そして私の予定を伺いたいという用件です。お父様が持っている手紙の差出人は、誰ですか?」と聞くと、お父様の顔が青ざめていて、震えた声でこう言った。「国王陛下からの手紙だ。内容は、明日王城に私とオリビアだけでこいとの事だ。これは、おそらく婚約破棄のことだろう。明日、朝一番に王城に行くから、今日はもう寝なさい。」そう言われて、執務室を後にして、寝室へと向かった。明日、国王陛下と会うと思うと、緊張して中々寝付けなかった。
前回に引き続き、この物語を読んでくださり、ありがとうございます。今後は、読んでくださる人がいる限り、書き続けようと思います!