二人の出会い、そこから婚約破棄に至るまで
私は、ベイリー公爵家の長女、オリビア・ベイリー。今日、六歳の誕生日を迎えた。例年なら誕生日を祝ってもらえる嬉しい日だが、今年は違う。この国では、双方が六歳以上になったら、婚約者と顔合わせをする決まりがある。しかも、私の婚約者は、この国の第一王子のスティーブン殿下だ。これからスティーブン殿下にお会いするので、とても緊張している。噂によると、容姿端麗で、高いカリスマ性を持った次期国王にふさわしい人と聞いてる。「私なんかが婚約者でいいのかな?」そう思わずにはいられなかった。でも、公爵家の長女に生まれたからには、自分の使命を果たさなければいけない。改めて、気を引き締める。「オリビア、そろそろ時間だ。王城に向かおう。」お父様にエスコートされるがまま、馬車に乗った。そして、あっという間に王城に着いて、スティーブン殿下が待っている応接室まで招かれた。「きちんと挨拶するんだぞ。」と、お父様に忠告された。おそらく、私が緊張して喋れなくならないように、フォローをしてくれたのだ。「分かっていますわ。婚約者としての顔合わせを完璧にこなしてみせます。」と、態度の悪い返答をしてしまった。これは、私の悪癖だ。私は、自分に好意的に接してくれる人に対して、素っ気ない返答をしてしまうのだ。ダメだと分かっていても直せないから、気をつけなければいけない。まぁ、反省は後回しにして、今は挨拶をしなければ。「ご機嫌よう。国王陛下、第一王子殿下。私はベイリー公爵家の長女、オリビア・ベイリーと申します。以後、お見知りおきを。」ふう、間違えずに言えた。と思っていると、「我は国王のリチャードだ。隣にいるのが、第一王子のスティーブンで、ベイリー公爵令嬢の婚約者だ。まぁ、長話をするつもりはない。今日から正式に、二人は婚約したということを伝えたかっただけだ。後は、二人で話でもしているといい。」そう言って、国王陛下はお父様と一緒に退席してしまった。私が言葉に詰まっていると、「君が僕の婚約者か。婚約が決まったのだから、これからよろしく。僕も君と良好な関係を築けるように努力するよ。」確かに、噂通りの素晴らしい人だ。金髪碧眼のとても整った容姿をしていて、人を惹きつける魅力がある。そして、物腰も柔らかく、話していて、とても心地がいい。私、この人に本気で恋しちゃったかも。「私は別にあなたと仲を深めたいとは思っていません。あくまで婚約者ですわ。」あ、また悪い癖が出てしまった。これは、流石に第一王子殿下も怒るよね。「分かった、なら婚約者としての最低限の役割をこなしてくれればそれでいいよ。今日はそろそろお引き取り願おうか。」ヤバい、確実に怒らせた。どうしよう、謝罪だけでもしなきゃ。「気分を不快にさせてしまい、申し訳ございません。」とりあえず謝ったけど、どうかな?「ベイリー公爵令嬢、僕は別に怒っているわけではありません。ただ、これは政略結婚なので、必要最低限の関わりで十分だと気づいただけです。なので、今日はお引き取りを。」そう言われたら、帰るしか道がない。「わかりました。それでは、またお会いしましょう。」と言ったものの、それからは必要最低限しか会うことはなく、私がどんなアプローチをしても、スティーブン殿下に伝わる事はなかった。
〜スティーブン王子の王太子任命式にて〜
今日は、スティーブン殿下の十八歳の誕生日であり、彼が王太子に任命される日でもある。本来なら、私との結婚を宣言する日でもあるが、今日はスティーブン殿下がエスコートをしてくれなかった。婚約者と一緒に入場しないと言うことは、すなわち別の女性と入場していると言うこと。相手が王妃殿下や、王女殿下なら問題はないが、別の令嬢を連れていた場合は、その女性とスティーブン殿下が結婚すると皆に知らしめているようなもの。つまり、今日私は婚約破棄を告げられるかも知れない。考えただけでも、胸が痛い。拒絶されたくない。私を愛して欲しい。そんな私の願いは叶うはずもなく、スティーブン殿下は、一人の令嬢を連れて入場して来た。「皆の衆、聞いてくれ。私は今日この場でベイリー公爵令嬢との婚約を破棄する。そして、新たにフロスト伯爵令嬢と結婚する。」え?どういうこと?なんで公爵令嬢ではなく、伯爵令嬢と結婚するんだ?と言う困惑の声が周りから聞こえてくる。私は、ある程度予想をしていた。でも、愛しい人から拒絶されると傷つくし、悲しい。でも、まだ本人と話をしていない、だから話だけでもしたい。「スティーブン殿下、私と婚約破棄するのは本当ですか?加えて質問ですが、そちらの令嬢はどなたですか?」と震えた声で聞いてみる。「質問に順番に答えていこうか。まず、婚約破棄は本当だ。私は初めて出会った日に、君に拒絶されてから、ずっと君の事が嫌いだった。でも、婚約者だから仕方ないと言い聞かせた。そんな時、彼女に出会ったんだ。」そして、隣に居た女性が喋る。「私は、フロスト伯爵の長女、シャーロット・フロストと申します。ずっとスティーブン様のことが好きで、この前のパーティーで思いを伝えたら、受け入れてくれたんです。なので、これからはあなたではなく、私がスティーブン様の婚約者として一緒にいます。」シャーロットと名乗ったこの女性は、何を言っているのだろう。そもそも、婚約者がいる男性に告白するなど非常識にも程がある。それに、スティーブン様と呼ぶのは馴れ馴れしすぎる。一体何を考えているのか、理解出来ない。「いや、違うぞ、シャーロット。俺達はこれから結婚するんだから、君は俺の妻だよ。」妻?妻と言うより、王太子妃と言う方が適切だ。そんなことより、今は、スティーブン殿下から言われた言葉の数々が胸に突き刺さる。出会った時から嫌われていた。それなら、どれだけアプローチしても、意味ないじゃない。悲しい気持ちが堪えきれなくなって、泣き崩れそうになると、誰かが私にタキシードを被せてくれた。知らない人の気遣いに感謝していたのも束の間、その人はスティーブン殿下のもとに向かった。「婚約破棄したなら、僕がベイリー公爵令嬢と婚約しても構わないですか。」と突拍子もないことを言い出した。「あぁ、俺は別に構わないぞ、ギャレット、いや第二王子と呼んでおくか。」第二王子殿下って、あの方が?普段、公の場でみたことなかったから、知らなかった。でも、なんで私と婚約なんて、言い出したの?と考えていると、「オリビア嬢、今度正式にお家に訪問します。しかし、今日は家まで送らせてください。」と言って来たので、「お気遣い、ありがとうございます。」と言って、二人で馬車に乗ることになった。馬車の中で、私はギャレット殿下に質問してみた。「なぜ、私と婚約しようと思ったのですか?私はあなたと会ったことがないのに。」質問の答えは、想像もしない物だった。「ずっと、陰ながらあなたを見ていたからです。例えば、兄様のために手作りのお菓子を持ってきた時は、とても可愛らしいと思いました。その他には、兄様が忘れたハンカチを届けに来た時は、とてもあたふたしていて、見ていて面白かったですよ。」それって、今まで私、ストーカーされてたって事?「何で、小さい頃のことまで知っているのですか?怖いを通り越して、気持ち悪いです。」いくら混乱したとは言え、王子相手に言いすぎたかな?「いいですね。もっと罵詈雑言を私に浴びせてください。僕は、あなたのツンツンした言葉も大好きですよ。」えっと、すごく気持ち悪いこと言っているのだけど、まさか私とんでもない人と、婚約しちゃったかも!?
好評だった場合のみ、続きを書きます。