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虚空のシンフォニア――序奏・黎明の迷宮――  作者: 渡邊 香梨
終章 二つのアステル
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軍司令部Side2:会議は踊る(後)

「ベレンツェン医局長、第五艦隊主任軍医コルンバーノ中佐、第九艦隊主任軍医ナザリオ中佐、第十三艦隊主任軍医フォンシエ中佐――と、言う訳だ。ちなみに今回、医局ぐるみの不正と言う事で、各艦隊司令官の監督責任までは問わないつもりでいるから、アルフェラッツ、本多、ダングバルトは安心すると良い」


 各艦隊司令官の表情に一瞬、緊張が走ったが、バリオーニの言葉に、とりあえずは名指しされた3司令官共が、ホッと息を吐き出した。


「反論があるなら、控え室にルグランジェ中佐を待機させているから、証言させても構わないが?」


「――――」


 言葉の代わりにベレンツェンは、放心したのか、崩れ落ちるように椅子に腰を落とした。


「まぁそんな訳で、今挙げた4名の解任動議と言うのが、私からの提案だ。必要であれば、証拠はまだあるから、異議があれば言ってくれ」


 捏造と言わせないため、更なる証拠の存在を仄めかせている時点で、ベレンツェンの側に既に勝ち目はない。


 実際に、誰も意義を唱える事はしなかった。


 ローガンベリーが保身を優先するなら、口を閉ざす――クレイトンがそう、予想した通りに。


「宇宙局は、主犯をハミルトンとして、ガルシアが責を負う。情報局は、ダントンを主犯として――特務隊を預かる、特殊情報部の部長は、今回無関係にしろ、減俸か降格は必要だな。医局は3人の主任軍医を主犯として、ベレンツェンが責を負う。実行者がどうであれ、対外的には、それで処罰の連鎖は喰い止められる筈だ。マノリト少将、人事への指示は任せるが、良いな?」


 有無を言わせないバリオーニの空気に、矛先を向けられた、総務局長ルカ・マノリトも、頷いて恭順の意を示す事しか出来なかった。


「副本部長、その点は間違いなく承りますが、空いた地位(ポスト)の件はどのように――」


「主犯と責任を取る人間は定まったにしろ、底辺まで、まだ捜査は及んでいまい。当該士官の処分が全て済んでから任じたいと思うが、それまでは直属の者に代行させたら良いだろう。最も、いくつかの部署は、この後の〝アステル法〟諮問会如何で、先に任じておきたいところだ」


「――――」


 せっかく任命した者が、後で「横流し犯」の関係者だったと言う事態は誰もが避けたいため、バリオーニの発言に否やはなかったのだが、続けて出た〝アステル法〟の言葉に、会議室が僅かにざわついた。


「バリオーニ大将。今回の懲罰動議で空くのは、どれもそれなりに権限のある地位だ。いきなり〝アステル法〟で招聘する民間人を据えるのは、反発も大きい――」


「内部の反発など、知った事か。――と、敢えて言わせていただきましょう、ローガンベリー大将。今回の『横流し』が明るみに出る時点で、民間(そと)からの軍部への信用は急降下する。5年振りの〝アステル法〟で招く民間人を要職に据えるのは、信用の失墜を押し留める、良い話題になる。他に、非難の目を逸らすのに良いやり方があるのなら、拝聴しますが?」


 さりげなく、別の「子飼い」を新たに取り立てる事を牽制してくるバリオーニに、ローガンベリーが忌々しげに顔を(しか)めている。


「しかし今回の()()()とて、〝使徒(ディシス)〟の幹部

と無関係ではないらしいではないか。それこそ、民間(そと)からも軍部(なか)からも、いらぬ詮索を受ける要因になり得ると――」


「……おや、面白い事をおっしゃる、ローガンベリー大将。その話、どこからお伺いに?」


 問いかけたバリオーニの微笑は、とても純粋なものではなかった。


 〝アステル法〟の対象者、若宮水杜が〝使(ディ)(シス)〟の襲撃を受けた――と言うのは、バリオー二にはまだ知らされておらず、この時点では、「地球(テラ)国立図書館」の元同僚に〝使徒(ディシス)〟関係者がおり、今日のこの諮問会を妨害すべく、何かを仕掛けてくる可能性があると言う、従前の情報だけであった。


 それよりも、詳しい情報を持っていたと、口を滑らせたも同然のローガンベリーに、気が付かないバリオーニではない。


 この場がほぼ、バリオーニの独壇場となっている事に、誰もが気付き始めていた。


「い……今、その話は必要かね」


「……失礼した。ちなみに私が聞いているのは、今回の対象者と〝使徒(ディシス)〟関係者が、同じ職場で働いていた時期があったと言う事だけ。そんな事にまで口を出し始めたら、軍部で働ける人間など、一人もいなくなるのでは?我々とて、今回の横流し、転売犯の同僚と言われれば、返す言葉はないだろうに。あくまで、民間で盛り上がりそうな話題を提供出来ると言うところに重きを置くとするならば、私は

今回の〝アステル法〟は、渡りに船。拒否する理由もない――と、予め申し上げておこう」


「……っ」


 ローガンベリーが声を詰まらせるのとは対照的に、下手に座る本多天樹が、気付かれない程度の息を小さく吐き出していた。


(バリオーニ大将が、()()()()に付いた)


 クレイトンの、事実上の上役と言う点からすれば、こうなるとは思ってはいたが、直前まで、不安はあったのだ。


 バリオーニの旗幟が明確になれば、ここから反対するだけの手札を持ち合わせている人間は、いない――いや、いなくなるようには仕向けていたのだ。


 天樹は、薄氷の上での賭けに勝った事を確信した。


「ああ、そうそう。急ごしらえの書類で申し訳ないが、そう何度も同じ諮問会を開くのも、この時期どうかと思ったから、()()()も1件〝アステル法〟の適用申請を()、追加させて貰う。話を今日の本題に移しても構わないか?」


「⁉」


 ただしバリオーニの発言には、天樹すら予期しなかった、続きがあった。


「副本部長が〝アステル法〟の適用申請ですか⁉」


「本多に資格があって、私にない筈がないだろう」


 思わず声が裏返った、総務局長・マノリトに、真顔でバリオーニはそう答え、それはそうですが……と、マノリトは言葉を詰まらせる。


「正確には、今回の告発の褒賞代わりにルグランジェ中佐が望んだ事のうちの一つだが、ヤツには申請権はないし、上役たるベレンツェンはこの通りだ。私がその代理を引き受けた。()()も連れてきているようだから、本多の分と一緒に諮問審査を頼む」


 そう言ったバリオーニの言葉と共に、控え室の扉が開かれ――日頃の本多天樹を知る何人かは、彼が目を見開いて絶句すると言う、非常に珍しい光景を目にする事となった。

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