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第70話 聖剣伝説3

 聖剣の刺さった岩の前まで行くと、私は言った。


「アイリーン、まずはあなたが試してみなさい。むしろ抜きなさい」


「か、かしこまりました! マリア様の命令とあらば、命に代えても抜いて見せます! では行きます! ふんっ! ふんふん! ふふふん! ふんふんふんふん!  このっ、ふぉぉぉぉぉぉっっっっ! ……すみません、無理でした」


 アイリーンが聖剣を抜こうとするものの、顔を真っ赤にして思いっきり引っ張っても、聖剣はうんともすんとも言いはしない。


 次にライプニッツ司教も挑戦したが、


「やはり聖剣は、真に神に認められた『祝福を受けし者』しか抜けないようだ。俺の信仰心もまだまだということだな」


 これまたピクリともしなかった。


「じゃあ私の番ね……」

 アイリーンとライプニッツ司教が見守る中、私は聖剣の前に進み出た。


「さあどうぞ。次はマリア様の番ですよ」


 アイリーンはにへらーと何も考えてなさそうな顔で言ったが──ふざけんな!( :゜皿゜)


 こんなもん抜けるわけないでしょ!

 そもそも抜けないように細工されている剣なのよ?

 ムキムキに鍛えたむさ苦しい大人の男が、どれだけ力を込めても抜けないのよ?


 そんのか弱いスーパーセレブの私に抜けるわけないじゃない!


 冗談じゃないわよ、まったく。

 ああもう、なんで私はこんな負けが見えている賭けに乗ってしまったのか。


 このクサレ司教にそれ見たことかと笑われることを想像して、私の心は溢れんばかりの憎しみでいっぱいになっていた。


 だがしかし、ちんたらしていても事態は解決しない。

 ここで逃げることは、それこそ末代までの恥。


 私はライプニッツ司教に、いつか必ずひどい目にあわせてやるから覚えておけと心の中で呪いの言葉を吐きながら、聖剣を軽く握った。


 もうほんと軽く。

 抜けるわけないのに必死に力を入れるなんて、アホらしいからね。


 だがしかし!

 な、なんということだろうか!


 聖剣はスッと軽やかに岩から抜けると、その刃が煌々と光り始めたのだ!


「「「 !!!??? 」」」


 私たち3人は思わず顔を見あわせた。

 2人とも目を丸くしている。

 私も多分同じように驚いた顔をしていることだろう。


 だって。

 だってだってだって!


「せ、せせせ聖剣が抜けちゃったんだけど!?」


「ま、ままままままマリア様!? せ、せせせ聖剣が、聖剣が……あわわわわわ!!!!!」

 アイリーンがガクガクと震えだした。


 そしてライプニッツ司教はというと、


「マリア=セレシア様。あなた様こそが神に使わされた真なるメシア、『祝福を受けし者』だったのですね! は、ははぁ!」


 私に向かって這いつくばるように土下座をした。


「土下座とかいいから、どうすればいいのよ、これ!?」

 光り輝く聖剣を右手に、困惑しながら尋ねると、ライプニッツ司教は言った。


「聖剣を抜いたということはマリア様は神の使徒であるということ。すなわち勇者であることの証明に他なりません」


「えっ? てことは私は勇者なの?」


「聖剣を抜いたという事は、そうなりますね」

「なにそれ、えっ! 私すごっ!?」


 聖剣を抜いちゃうなんて、さすが大陸一のスーパーセレブだわ。

 っていうか私は自分のスーパーセレブ力を過小評価していたみたい。

 私ってば謙虚で控えめなレディだから仕方ないんだけれど。


 つらいわー。

 スーパーセレブ過ぎてつらいわー。

 聖剣まで抜いちゃったわー。

 

「これまで数々の非礼と無礼を働いたこと、誠に申し訳ありませんでした。俺の目が曇っておりました。なにとぞ! なにとぞお許しくださいませ、勇者マリア=セレシア様」


 そして今までの不遜な態度とは、まるで別人のようにへりくだるライプニッツ司教。


「まぁ、分かればいいのよ」


「マリア様はすごいお方だとは思っていましたが、まさか本当に神に選ばれたお方だったなんて……。わたし、感激です!」


 うっとりした顔で滝のように涙を流すアイリーン。


 そしてライプニッツ司教は土下座したまま、私がいかに素晴らしい人間であるかを滔々と語ると、最後に行った。


「それでは大司教様に、このことを報告してまいります。聖剣が抜かれ、勇者が誕生したと聞けば、大司教様もたいそう驚かれることでしょう。同時に俺は辞表を提出します。曇っていたのはマリア様の御心(みこころ)ではなく、俺の目の方だったのだから。俺は俺の身る目のなさを今、心から恥じています」


 そう言って顔を上げたライプニッツ司教も、滝のような涙を流しながら満面の笑みを浮かべていた。


 うげっ、泣きながら笑ってやがる。

 気持ち悪っ。

 これだから宗教は。

 たかが岩に刺さった剣を抜いただけでしょうが。


 しかし、である。

 ライプニッツ司教を、大司教の元に行かせることだけはできなかった。


「待ちなさいライプニッツ司教」

 私は立ち上がって歩き始めたライプニッツ司教を、すぐさま呼び止めた。


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