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第68話 聖剣伝説

 この日、私はお父様に連れられてとある有名な観光地へとやってきていた。


 セントマリアという名の観光地で、古来より、女神マリアルイーズの祝福を受けた者だけが聖剣を抜けるという聖剣伝説があり、実際に聖教会の敷地内には聖剣の刺さった岩が鎮座している。


 ちなみに私の名前「マリア」もこの女神マリアルイーズから取られている。

 女神のように完璧な存在の私には、実に相応しい名前よね。


 今も、我こそは聖剣を抜いて勇者にならんと考える愚かな平民たちが、聖剣の刺さった岩の前で、列をなして順番待ちをしていた。

 それを私は聖教会内にある上級国民用の特別な宿泊施設の、さらに最上階のスーパーウルトラスペシャルV.I.P.ルームから優雅に見下ろしていた。


 ここは教皇が宿泊する時くらいしか使われないという超特別な部屋だそうで、そこそこ豪華で、まあまあ快適だ。


 ま、セレシア侯爵家にある私の部屋と同じくらいの豪華さかな?

 こっちの方が気持ち小さいけど。


「まるで人がゴミのようね」


「そうですね、すごい人出ですよね。さすがは大陸屈指の観光地と名高いセントマリアです。上から見ると人の多さがよく分かります」


 私の隣で同じものを眺めているアイリーンが、はしゃいだ声を上げる。


 が、しかし。


「まったく、聖剣伝説なんて嘘に決まっているでしょうに、まんまと騙されて踊らされて。これだから浅はかな愚民は困るのよ」


 次から次へと聖剣を抜くことに挑戦しては抜けずに悔しがる、世の道理も真理も真実も知らぬ無知蒙昧(むちもうまい)な民草どもを見下ろしながら、私は大きな溜め息をついた。


「ええっと、マリア様?」


「ま、だから愚民は愚民なんだけどね。ほら、アンタもバカみたいにはしゃぐのはやめなさい。アンタは貴族の名門の中の名門、セレシア侯爵家の専属メイドなのよ? アンタを介して私にまで愚民が伝染(うつ)ったら困るでしょ」


「これって嘘なんですか? だってあんな風に、剣が岩に刺さっているんですよ? しかもどんな力自慢でも抜けないんですよ? つまり本当なんじゃないですか?」


「あのねアイリーン。こんなものはね、地元の観光協会が流した自作自演の風説と相場が決まっているのよ」


「そうなんですか?」

 アイリーンがイマイチ腑に落ちないといった顔を見せる。


「ええ、そうよ。今までお父様に連れられて大陸各地を見てきたけれど、似たような話をいくつも見てきたわ。聖剣が岩に刺さっている設定もそっくりそのまま同じね。少しは捻りを入れて、差別化を図りなさいっての」


「捻り……差別化……」


「偉大なる天才作家マナセイロ=カナタニア先生の物語なら、こんな手垢のついた凡百(ぼんぴゃく)な設定は絶対に出てこないわよ。来月のお小遣いを賭けてもいいわ」


「それはまた大きく出ましたね」


「当然よ。こんな低次元な話で人の関心を引こうだなんて、これを考えた人間には『恥を知れ、恥を!』と言いたいところね」


「ですがマリア様、ここの聖剣伝説はちゃんと聖教会がお墨付きを与えておりますよ? その辺の適当な野良聖剣伝説とは、訳が違うと思うのですが……」


 なんだ野良聖剣伝説って。

 すごいのかすごくないのか、イマイチ分かんないわよ。


「あんたが聖教会にどんな幻想を抱いているのか知らないけれど、あそこはそれはもう、超が付くほどお金儲けが大好きなところよ」


「えっ、そうなんですか? だって聖教会ですよ?」


「やれやれ、この子は本当になにも知らないアンポンタンね」

「えぇぇ……」


「しょうがないわ、特別に少しだけ私が説明してあげましょう。はるかな高みから短慮軽率な一般大衆どもを見下ろして、今の私はなかなか気分がいいからね。愚民どもに感謝しておきなさいアイリーン」


「ありがとうございますマリア様。この無知蒙昧で愚かな下僕めに、是非とも手取り足取り腰取り教えて下さいませ。うふふ……」


 ぞぞぞ――!


 え?

 なに今の?

 なんか背筋に妙な寒気が走ったんだけど。


 やだわ、風邪かしら。

 まぁ今はいいわ。


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