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第63話 『ブルー・マリア』(ざまぁ)

「マリア、最近園芸に興味があるというのは本当かい? 新しい庭師を雇い入れて、新種のバラをいくつも開発したと聞いたのだが」


「はい、お父さま。バラの開発に非常に長けた庭師を雇いまして、様々なバラを作ってもらっておりますわ」


「じゃあ新種の中に、青いバラができたというのは本当かい?」


「はい。まだ数は多くはありませんが、開発自体はほぼ完了しておりますわ。これから数を増やしていく予定で――」


「……でかしたぞマリア!」


 お父さまが子供のように目を輝かせながら、それはもう嬉しそうな顔で私の手を握った。


「え、あ、はい?」

「ほんとうにでかした!」

「は、はぁ」


 こんなにもはしゃいだお父さまの姿を見るのは生まれて初めてだったので、困惑する私。


 お父さまはいついかなる時もクールで紳士な、世界で一番素敵な大人の男性なのだ。

 そのお父さまが、こんなにもはしゃいだ様子を見せるだなんて、珍しいこともあるものね。


「青いバラはね、私がまだ若い頃に研究に没頭した、人生の夢だったんだよ」

「あら、そうだったのですね」


「話すと長くなるのだが――」


 お父さまがいつになく情熱的に語られたことを要約すると、つまりこういうことだった。


 お父さまは今でも盆栽を愛でるほどに植物が好きで、もちろん花の女王とまで呼ばれるバラも大好きだったらしい。

 そしておとぎ話に出てくる不思議な青いバラに憧れて、なんとか青いバラを作れないものかと、侯爵家の跡取りとしての忙しい日常の(かたわ)ら、研究にいそしんでいたそうな。


 しかし若くしてセレシア侯爵家の家督を継いだことで、研究をする暇はなくなってしまい、叶わぬ夢として心の中に封印したのだという。


「青いバラの花言葉は『不可能』。誰も作ることができないという意味が込められた花言葉だ。当時の私は、不可能を可能にするべく情熱を捧げていたのだが、残念ながら私には成し得ることができなかった。不可能を可能にはできなかったのだ。私の人生で最大の挫折。それが青いバラだった」


「お父さまでも、できないことはあるのですね」


 自慢じゃないが、お父さまは何でもこなすスーパーマンだ。

 政治や経済・外交から、庶民や異国の文化までに精通した、まさに貴族の中の貴族。

 国を背負って立つにふさわしい大貴族だった。


 そんなお父さまが、まさか若い頃に青いバラを研究していて、そして挫折していたなんて。


「私の夢をかなえてくれたのが、他の誰でもないマリアだったことに、私は人生最大の幸福を感じているよ。叶わぬ夢を、私に代わって叶えてくれて本当にありがとう」


「こうまで喜んでいただけて、私も嬉しいですわ」


「それでなのだがね。マリア、私からたってのお願いがあるのだが」

「はい、なんでしょう?」


 ちょ、ちょっと待って!?

 この流れで『お願い』だなんて、なんだか嫌な予感がしてきたわよ……?


「この青いバラを、父に託してくれないか?」

「えっと、あの、それはどういう意味でしょうか……?」


「この青いバラを世に広めたいのだ。この世に不可能などないのだと、世界に知らしめたいのだ。諦めなければ夢が叶うということを、他でもない、マリアが作ってくれたこの青いバラで、私は世界に伝えたいのだ」


「あの、えっと……」


「どうだろうかマリア? お前の作った青いバラを、どうか父に託しては貰えないだろうか?」


 まるで愛の告白をするかのように、目をキラキラさせながら私を見つめるお父さま。


「よ、喜んでお父さまにお託しいたしますわ……」


 大好きなお父さまにそんなことを言われてしまったら、嫌だなんて言えるわけないでしょ!!


 その後、部屋に戻った私が、心の底から号泣したのは言うまでもなかった。



~~回想終了~~



 こうして青いバラ『ブルー・マリア』は、お父さまが直々に、かつ超本気で陣頭指揮をとったことで、それはもう驚くべき速さで量産体制が確立した。


 そして晴れて我が国の特級の特産品として、他の新種のバラとともに各国に輸出されることになったのだ。


 こうして青いバラによる私の覇権は、超速攻で終わってしまった。



「どうしてこうなった……? まぁお父さまの若い頃の夢を叶えられたから、それだけは良かったんだけど……」


 私は自室に飾られた『ブルー・マリア』を力なく見つめながら、がっくりと肩を落とした。

 気持ちがブルーに滅入ってくる。


「はぁ、今日の私はまさにブルー・マリアだわ……」


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