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第60話 クズ令嬢、青いバラにビビッと来る。

「うーん、いい朝! ちょっと寒いけど、こんな日は優雅に朝のお散歩でもしてみようかしら?」


 私はいつもよりかなり早めに目を覚ますと、すぐに部屋を出て庭園を散歩することに決めた。

 朝が早いのでまだ少し肌寒い。


 私は豪奢なシルクの寝間着の上に、シロクマと呼ばれる北の極地に住まうらしい真っ白なクマの毛皮を羽織った(もちろん簡単には手に入らないのでメチャクチャ高い)。


 ドアを出たところで、


「おはようございます、マリア様。本日は大変お早くお目覚めになられたのですね」

 アイリーンが突然ニュっと視界に入って来た。


 なにかしら朝の準備をしていたのだろう、アイリーンは物音ひとつ立てずに歩いてくる。


「アイリーン、あんた今どっから出てきたのよアンタ」

「歩いてきましたよ?」

「なにも気配を感じなかったんだけど」


「私ごときの足音でマリア様の安眠を妨げることがないように、朝の早い時間は気配を断っておりますので」

「ああそう……」


 アイリーンが、もはや理解する気すら起こらないようなことを言った。


「専属メイドのたしなみとして、セバスチャン様に教えてもらったんです」

「セバスチャンに?」


「はい、セバスチャン様は戦闘のスペシャリストですので、気配を殺すテクニックにも長けているですよ」

 妙に誇らしく言ってるけど、メイドにそんな特殊な技術は必要ないわよね?


「でもいきなりニュっと視界に出てくるのは心臓に悪いから、私が起きてるときは止めなさい」

「かしこまりました」

 アイリーンが恭しく頭を下げた。


 私が歩き出すと、アイリーンが少し後ろで随伴を始める。


「適当に庭を散歩するだけだから、イチイチついてこなくていいわよ。うっとうしいから」

「私はマリア様の専属メイドですので、常にお側におりますよ」


「ああそう。っていうか、あんたまだ仕事前でしょ? こんな早い朝の仕事は与えていなかったはずだけど? なのになんでもうバッチリメイド服を着て仕事してるのよ?」


 専属メイドは1日中私に付きっきりになる代わりに、朝夕の雑用からは解放されているはずだ。

 というか我がセレシア侯爵家は、その辺の平凡な貴族とはわけが違う、超お金持ちなキング・オブ・上級貴族なので、メイドも執事もそれぞれの専門分野に、有り余るほどたくさん配置されているのだ。


 なので細々した雑用を専属メイドがする必要は全くない。


「マリア様の専属メイドたるもの、マリア様が早起きしそうなときは察して早起きするのが当然の務めですので」

「あらそう、殊勝な心掛けね。じゃあ邪魔しない程度についてきなさい」

「かしこまりました」


 一体どうやって察するのかは聞かないことにした。

 世の中、知らなくてもいいことは多々あるのだ。


 ま、アイリーンの高い忠誠心には、私もそれなりの信頼を感じているからね。

 クビにしようとしたら自害しようとしたり、馬車の中が汚れないようにと大雨が降っても馬車の外にいたりとと、ちょっと病的なところがあるのが怖いけど……。



 庭園に出ると、庭を掃き清めていた庭師が少し(なま)った言葉で、けれど大変にかしこまった様子で挨拶をしてくる。

 私は軽く視線だけ向けてその前を素通りしかけて――しかしその手元にあるものに目を奪われてしまった。


「ちょ、ちょっとあんた……ええっと」

「マリア様、彼は使用人では一番の古株の、庭師のアルベルトさんです。かつては王宮で庭師長をされていたそうですよ」


 とっさに名前が出てこなかった私に、アイリーンが小声で進言する。

 ま、一介の使用人の名前なんぞ、私が覚える必要はないからね。

 専属メイドはこういう時のためにいるわけで。


 ともあれ、私は込み上げてくる興奮に急かされるようにしてアルベルトに尋ねた。


「アルベルト、その手に持った花はなにかしら?」

「へぇ、マリア様。これは知り合いの花の研究家から、研究中の青いバラの株を譲り受けたものでして」


「研究中の青いバラですって?」

「へぇ、左様にございます」


「バラなのに青いの?」

「へぇ」


 ビビビッ!

 私の中の令嬢マウントセンサーが、ものすごい勢いで反応していた。


 青いバラですって?

 こんなものがあるだなんて!

 これがあれば、パーリーで私は話題の的じゃない!!


「アルベルト。その話をもっと詳しく聞かせてちょうだい」

 私はいますぐ飛び上がりそうになるほどの興奮を必死に抑えながら、アルベルトに問いかけた。

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