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第42話 ウォール・マリア(前編)

 私の視線の先にあったのは――周囲を取り囲む膨大な数の民衆だった。


 農具や木の棒などを持ったものすごい数の平民たちが、屋敷を囲む王国軍をさらに外側からぐるっと取り囲んでいるのだ。


 慌てて窓を開けてみると、彼らの声が風に乗って聞こえてきた。


「聖女マリア様を今すぐ解放しろ!」

「王国軍を取り囲むんだ!」

「王国軍が動きを見せたら突っこむぞ!」

「俺たちが聖女マリア様を守るんだ!」

「マリア様万歳!」

「マリア!」「マリア!」「マリア!」「マリア!」


 今なお続々と集まってくる民衆たちは、今にも突撃を敢行しそうな様子で気勢を上げながら、王国軍を取り巻いていた。


 あれは外国人居留地から来たのかな?

 外国人の一団もいる。


 そしてその中に私は見知った顔があるのを見つけた。


「あれってリプニツカヤと、たしかこの前私が0点をつけてやったのになんでか高名なマエストロの弟子になりやがった……エルザちゃん、だっけ? あれリーザだった? いやリエナだったかな? まぁいいや、名前はもう忘れちゃったあの子よね?」


 とにかくリプニツカヤ&あの歌手志望の女の子が、木箱の上に登って歌と即興の劇をして民衆の士気を高めているのが見えたのだ。

 時々私の名前が出てくるから私の歌と劇なのかな?


 さすが私。

 私を讃える歌劇まで作られているなんて、なんてスーパーセレブなんだろう。

 困るわぁ、本当に困るわぁ。

 むふふっ。


「でもこれってどういう状況? いったい何が起こってるの?」


 私はいったん室内に視線を戻すとセバスチャンに問いかけた。


「おそらくマリア様が窮地に陥ってると知り、帝都や帝都周辺の民衆が自発的に立ち上がったのでしょうな。マリア様を守ろうと、彼らはこうやって駆け付けてくれたのです」


「それ本当!?」


「本当さ。ま、最初に噂をばらまいて焚きつけたのは俺たちだがね」

「――っ! なに奴!」


 突如として部屋の入り口から聞こえてきた声に、セバスチャンが即座に反応する。

 私を自分の背中に隠すようにして前に出ながら、流れるような動作でスラリと腰の剣を抜いた。

 さすがセバスチャン、惚れ惚れするような動きで頼もしいわ。


「おいおい、セバスチャン。俺だよ俺、アルツハウザーだ」


 そこにいたのは特務騎士団『ヘル・ハウンド』のアルツハウザー卿だった。

 マナシーロ=カナタニア先生の『星海の記憶』最終巻が読めなかった時に力を貸してくれた、セバスチャンの盟友の騎士ね。


「アルツハウザー卿? なぜここに貴兄がいるのですかな? それに階段も通路も全て外して、ここには簡単には入ってこれないようにしていたはずでしたが」


「裏仕事を扱う特務騎士ともなれば、色々なところに忍び込んだりすることも多くてね。これくらいは手慣れたものなのさ。それよりも早く剣を仕舞ってくれないか? 元近衛騎士団長に殺気と剣を向けられていては、俺も気が気でないんでね」


「マリア様に敵対するつもりはない、と?」

「ははっ。そんなつもりだったなら、イチイチ声をかけてから入ってきたりはしないだろう?」


 アルツハウザー卿は小さく笑いながら肩をすくめてみせた。


 あらやだ、よく見たらこの人結構格好良くない?

 眼光鋭い渋キメっていうか。

 もう少し若かったら結構好みだったかも。


 前に会った時は『星海の記憶』の最終巻が読めないことにブチギレてたから、彼がイケメンかどうかとかまで気が回らなかったのよね。


 心の中で格付けチェックをする私をよそに、盟友二人の会話は続いていく。


「確かにそれは一理ありますな」


「それに剣技無双で知られた元・近衛騎士団長に真正面から戦いを挑むほど、俺は自分の腕を過信をしちゃあいないさ」


「……その言葉、信じさせてもらいますぞ?」

 セバスチャンが剣を鞘に納めると、


「ではお邪魔するよ」

 アルツハウザー卿が部屋の中へと入ってきた。


 セバスチャンは一応まだ完全には警戒の気持ちを緩めてはいないのか。

 何が起こってもいいようにと、私とアルツハウザー卿の間に位置取っていた。


 でも彼からは悪意みたいなのは感じないかな。

 勘だけどね。


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