神隠し
「あれ、こんなところに道がある」
神社内を怒り任せに散歩していたら見知らぬ小道を発見した。行こうか、戻ろうか。
そもそもは神社の境内にあるベンチで友達と喋っていたけれど、相手は彼氏から連絡がきたと帰ってしまった。あまりに薄情だ。
「透子も早く彼氏作りなよ」
なんて勝手なことを言い捨てて。大きなお世話です!
一連の流れを思い出したら腹が立ってきた。こちとら先輩に振られ、その翌日に後輩に告白されるも好みじゃないから断ったら思いっきり暴言を吐かれて、まだ数日である。なんだろ、厄年? まだ高校生なのに?
どうせ碌な事がないのだから、ちょっとくらい冒険しても良いじゃないか。そんな破れかぶれの思いつきで、小道に入ることにした。
「んん、暗いなあ」
木がトンネルのように生い茂っていて、思ったよりも大分暗いし狭い。腰をかがめてやっと通れるくらいだ。なんとか進むけど、そろそろ腰が痛くなってきた。
しばらく進むと広い場所に出た。木のトンネルを抜けての空き地。なんだか子供の頃に見た映画みたいだ。
ここで行き止まりだろうか。広いとは言え直径五メートルちょっとくらいだろうか。頭はつっかえないけど木のトンネルは続いていて薄暗い。
「ん?」
ボールが転がっていくのが見えた。歴史の教科書に載っていた蹴鞠のような刺繍の入った綺麗なボールだ。追いかけようと踵を返す。
「行ってはダメだよ」
「え?」
いつの間にか後ろに人がいた。宮司さんだろうか。背の高いその男の人は袴姿で、綺麗な顔だ。素直に言えば大変なイケメンで、めちゃくちゃ好みだ。
「木の間に消えていくのが見えたから追いかけたけど……正解だったみたいだね。今回は間に合って良かった」
「今回?」
聞き返すと彼は目を見開く。しかしすぐに微笑んだ。
「たまに消える子がいるんだよ。さあ、戻ろう。冷えただろうから社務所でお茶くらい出すよ」
「ありがとうございます」
消える子? それは……神隠しというやつだろうか。途端に体が震える。さっきのボールは私をどこかへ連れて行こうとしていた? 後ろからポンポンとボールの跳ねるような音がする。
「振り返らないように。こっちだ」
背を押され、木の間を抜けて戻る。足下に黒いシミのようなモノが見えたけど、必死で見ない振りをして日の当たる境内まで戻った。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
「どういたしまして。私は臼井健介。この神社で御禰宜を務めている者です」
「私は木原透子です。そこの高校の二年生です。えっと、ゴンネギってなんですか?」
「権禰宜はまあ、言ってしまえば一番下っ端の使いっ走りです。神社に寄ってはもっと下の職務もあるけど、ここでは俺が一番下っ端」
「そうなんですね」
臼井さんはにかっと笑った。笑顔が可愛らしかった。たぶんそんなに年上ではないのだろう。
ここしばらく男がらみで嫌なことが多かったけど、その気持ちが払拭出来そうな、そんな温かな気持ちになった。