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どんぐり

 幼稚園から家に帰って、その後母に公園に連れて行ってもらう。先日どんぐりがたくさん落ちている場所を見つけたので、今日も拾いに行くのだ。

 鼻歌交じりに母の手を引き、公園までやってきた。入り口を抜けて林へ向かう。林の中は薄暗くて怖いので、奥まで行かずに手前でしゃがみ込んでどんぐりを探す。

「あんまないね」

「ずいぶん少なくなってるわね。拾われちゃったみたい」

 仕方なしに母に虫除けスプレーをかけてもらって林に入る。少し行くと薄暗くてドキドキするけど、いくつかどんぐりを見つけた。

「あった!」

「丸いねえ」

「そだねえ」

 前に見つけたどんぐりはもっと細長かった気がする。母が種類が違うのだと教えてくれる。持ってきたバケツが一杯になるまでどんぐりを拾い集め、遊具で遊ぼうと林を出たところで誰かにぶつかった。

「いたいー」

「透子大丈夫? 君も、怪我はないかな?」

「うん。ごめんなさい」

「あ、どんぐり……」

 転んだ拍子にバケツがひっくり返って集めたどんぐりが全て散らばってしまっていた。どうしよう。今から拾い直す? 既に空はオレンジ色に染まっていて集め直していたら真っ暗になってしまうかもしれない。どうしよう。

「ごめんね、僕が走ってたから」

 見知らぬ声に顔を上げると、少し大きいお兄ちゃんが困った顔でこちらを見ていた。

「手伝うから一緒に拾おう」

「……うん」

 母と、そして見知らぬ男の子と共にどんぐりを拾い直す。最初は悲しかったけれど、三人で集めたらあっという間にバケツは山盛りになった。

「すごい! こんなにたくさん」

「透子、こういうときはなんて言うんだっけ?」

「お兄ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして。あの、名前、とうこちゃんって言うの?」

「うん。きはらとーこ」

「僕は臼井健介。ぶつかっちゃって本当にごめんね。またね」

 そう言ってお兄ちゃんは走って行ってしまった。

「遊具の方に行く?」

「……ううん。かえる」

 再び母と手をつないで帰宅する。家でどんぐりを水につけていると、母が思い出したように言う。

「そう言えばさっきの男の子、臼井くんって行ってたよね」

「うん」

「透子のクラスの……臼井茂くんのお兄ちゃんかな」

「えー? ちがうよお。だってしげるくんいじわるだもん。さっきのおにいちゃんは、やさしかったよ」

「どうかなあ」

 母は苦笑する。私は手を洗いおやつにする。あまり食べると夕ごはんが入らなくなるという母の小言に「ちゃんとたべるもん」と答えてクッキーを口に放り込んだ。

 その時の私は翌日の迎えの時間にお兄ちゃんと再会することを知らないし、本当にしげるくんのお兄ちゃんであることも知らない。

 ただ、もう一度会えたら良いなと幼心に願うだけだった。

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