表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

祭のあと

 楽しいお祭りになるはずだった。けど、実際は真逆である。彼氏とお祭りに行く約束をした私はウキウキしながらメイクをして、せっかくのお祭りだからと頑張って浴衣を着てきた。彼はそれを見て

「気合い入れすぎ。引くわ」

 と言って、去って行った。その後すぐに来たメッセージによると

『気合い入れすぎててケバい。一緒に歩きたくない。草履とか歩きにくいものを履いてきてどういうつもりなのか』

 とのことだった。ケバかったのは申し訳ないけど、最後がちっとも意味がわからない。浴衣なら草履でしょうが。

「はー」

 返事を考えあぐねている間に追撃が来て

『もう無理。別れよ』

 と言うことなので『了解』とだけ返して連絡先は削除した。

「あーあー」

 せっかく頑張って着付けたのにな。一人で混み合う祭なんて見る気にもなれない。ため息を吐いてとぼとぼと家に向かうと途中でコンビニがあった。

 コンビニ自体はもちろん昔からあったけど、今日は店頭に出店が出ていて焼き鳥や焼きそばを売っている。お祭りに便乗したのだろう。

「いらっしゃいませー。冷えたビールもありますよ」

 ゆるく声をかけられて、人恋しさからついふらふらと近付いてしまう。お祭りには行き損ねたし、彼氏にはフラれたしで踏んだり蹴ったりなのだから、お腹を膨らませるくらいしても良いのではないだろうか?

「すみません、ビールと焼き鳥の塩のセットと、焼きそばください」

「はい、千五百円です」

 店員のお兄さんがビニール袋にまとめて入れてくれた。お金を渡して踵を返す。

「あ、お姉さん」

 呼び止められて振り向くと店員さんがこちらに手を伸ばしている。

「?」

「帯、ほどけかかってます」

「あー……」

 なんかもうダメダメだ。でも帰るだけだからいいか。そう言うおうとすると店員さんは出店から出てきた。

「失礼しますね」

 店員さんはあっという間に帯を直してくれた。すごい、手早いしきれいだ。

「ありがとうございます……」

「いーえ。お祭り、楽しんできてください」

 笑顔で会釈する店員さんの名札を見ると臼井と書いてある。私は頭を下げて家に向かった。

 帰宅してから鏡に帯を映して写真を撮る。ろくでもない日だったし、嫌なことばかりの踏んだり蹴ったりだったけど、一つくらいいいことはあるものだ。浴衣を脱いで風呂を沸かす。こういう時こそとっておきの入浴剤を入れよう。

 風呂から出て飲んだビールは温くなっていたけれど、塩辛い焼き鳥と焼きそばは意外とおいしかった。

「……お礼、言いに行こうかな」

 確か臼井さんだ。行ってみていなくても、他の店員さんに伝えておけばきっと彼の評価は上がるだろう。でも、でも。

「できれば直接お礼いいたいな」

 酷い日だったのが、あなたのお陰で少しいい日になりました。なんて、気取りすぎだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ