おやつ
母に連れられて駄菓子屋さんに入る。そこは手の届く範囲に山のようにお菓子が積まれていて、それがこれでもかと並んでいる夢のような場所だった。
「透子が好きなお菓子を三つまでね」
「はい!」
店内が狭いことと、他に人がいないこと、そして商品の棚が低くて見通せるからと母がつないでいた手を離して自由に見て回って良いと言ってくれた。小さな買い物カゴを渡されると、嬉しくて楽しくて走り出したいのを必死に堪えてお菓子を見て回る。
「どれがいいかなあ」
たくさんのお菓子の山に、あれもこれもと目移りしてしまって選べない。一番大好きな綿あめは外せないし、チョコレートも食べたい。せっかくならたくさん入ったものがいい。いやいやそれとも大きいの? あ、ラムネも!
「ゆっくり選んでね」
突然、知らない人にしわがれ声で話しかけられてびっくりした。小走りで母のところへ戻ると、母は笑って
「こちらのお店の店長さんよ」
と言う。恐る恐る顔を上げると、優しそうな顔のおじいちゃんだった。
「こ、こんにちは」
勇気を振り絞って挨拶をすると、おじいちゃんは顔をくしゃっとさせて微笑む。
「おやおや、礼儀正しいお嬢さんだ。……そうか。君が」
おじいちゃんは嬉しそうに笑ってから、店内を手で指す。
「好きなお菓子を選んでおいで。臼井商店にはなんでもあるからね。好きなお菓子はなにかな?」
「えと……わたあめと、ちょこ」
「綿あめとチョコレートだね。それなら……」
おじいちゃんはゆっくりと棚の間を歩き出す。母が頷いたので着いていくと、おじいちゃんはすぐに立ち止まってかがんだ。
「この辺りが綿あめだね。何種類かあるよ。それで、この反対側、こっちの棚がチョコレートだ」
「わああ」
大好きな綿あめがこんなにたくさん! どうしよう。とてもじゃないけど一つなんて選べない! その様子に母は苦笑し、おじいちゃんはニコニコする。
「たくさんあるからね。一度に全部でなくても、ちょっとだけ買って、また今度違うものを買いにくるといい」
「またきてもいいの?」
「ええ。今日買って、それがなくなったらまた来ましょう」
「あした?」
「来週かしらねえ」
「えっと、じゃあ、これと……」
次があるならと真っ先に目に付いた綿あめを選ぶ。同じようにチョコレートも選んで、あと一つをどうしよう?
「あ、これ」
それはキラキラ光るビーズのセットだった小指の先くらいの大きいビーズがたくさん詰まった瓶で、上の方にはビーズに通すらしい紐も入っている。
「これ! これがいい!」
「まだ早いんじゃないかしら」
「やーだー。はやくない。これ!」
母は少し悩んでから「お約束、守れる?」と私の前にしゃがむ。
「遊ぶときはお母さんと遊ぶこと、ビーズを口に入れないこと、遊び終わったらきちんとお片付けをすること。これが守れるなら買ってもいいわよ」
「まもれる! おかあさんと、なめないで、かたづける」
「約束ね。この三つでいい?」
「いい!」
レジに行くとおじいちゃんがやっぱり笑顔で待っていた。カゴを渡すと
「いいものを選んだねえ」
と褒めてくれて嬉しくなる。母がお会計を済ませると、おじいちゃんがお菓子とビーズを袋に入れてくれた。
「はいどうぞ。そうだ、これはオマケね。かわいいお嬢さんに」
そう言って手渡されたのは、キラキラ光るお花のついた小さな指輪だった。お花は赤くてキラキラで輪っかはピンクだ。
「かわいい!」
「すみません、ありがとうございます」
「あ、ありがとう!」
「どういたしまして」
さっそく指輪を人差し指につける。母と手をつないで、おじいちゃんに手を振ってから店を出た。
「今回はずいぶん年が離れちゃったけど……でも、会えて良かった」
そんなおじいちゃんの呟きは、私の耳には入らなかった。




