うろこ雲
くるりと回ると、ドレープがふんわり広がった。その動きが美しくて、何度も何度も回ってしまう。その様子を彼、臼井健介は嬉しそうに眺めている。
「綺麗だ」
「ね! このドレス、レースに着いているスパンコールが魚のうろこみたいじゃない?」
「そうかな」
「うん。人魚姫のドレスみたい」
揺れるスパンコールが波間の魚みたいで素敵だった。このドレスを着ていたら私はどこまでだって泳げそう。
「俺は君を泡にはしないよ」
健介が真剣な顔になる。
「透子が何度波間に消えても、何度だって見つけ出す。今までも。これからも」
それは、一体何の話だろう。
「けん……すけ……?」
「あ、ごめん。なんでもないんだ。ドレスはそれがいいかな。他のも良かったけど、ていうか透子が着たらなんだって似合うけど、今着ているのが一番似合ってるよ」
「そ、そうかな」
不穏な雰囲気は一瞬で消えて、いつもの穏やかな健介に戻った。先程言っていたことは気になるけど、聞くのは後ででもいいのかな。
「じゃあ私のドレスはこれにしようか。次は健介のタキシードを選ばないと」
「俺はなんでもいいよ」
「だーめ。私がとびきりかっこいいの選ぶからね!」
今日はドレスと小物。来週は食事のメニュー。その他にも結婚式をするなら決めなくてはいけないことが山のようにある。でも健介は嫌がることも面倒な顔をすることもなく、全てに付き合ってくれている。だからこそ、私は彼にもやって良かったと、頑張って良かったと思ってもらいたいのだ。
ふと外を見ると空にはたくさんのうろこ雲が浮いていた。ひとつひとつが魚のようにも、全体で大きな魚のようにも見える。魚たちはどこまで泳いでいくのだろう。私は?健介は?
「ねえ、今日の予定が終わったら水族館に行かない?」
「いいけど、いきなりだね」
「魚のことを考えていたら本物を見たくなったの」
「ふうん。じゃあ急いで決めちゃおうか」
人魚姫のドレスを脱いで人間に戻る。彼をこれから王子様に仕立て上げるために、次は魔法使いのおばあさんになろうじゃないか。




