からりと
気持ちの良い天気だった。休みの日だったけどカーテン越しの日差しが明るくて目が覚める。
「よし、洗濯をしよう」
勢いよく起き上がった。カーテンを開けると、目がチカチカするくらい部屋の中が明るくなる。ついでにベランダに繋がる窓を開けると冷たい風が部屋へと吹き込んだ。
部屋へと戻り洗濯機を回す。その間に軽く朝ごはんを食べて布団を干す。洗濯機が終了を告げたので洗濯物をカゴに入れてベランダに干す。
「よし。今日はめっちゃ働いた」
休みの日だと言うのに、まだ八時台だと言うのに、既に布団も洗濯物も干し終わっている。偉すぎるでは?
「ん?」
隣の部屋のベランダから物音がした。興味本位で覗くと、若い男の人が布団を抱えている。しかしよろけて布団が外に転がり落ちそうになって
「危ない!」
咄嗟に手を伸ばし布団を掴む。一瞬自分まで落ちそうになるけど、その前に男性が布団を捕まえる。
「ごめん! ありがと。助かったー」
「どういたしまして」
「あ」
「え?」
彼が私の顔を見てぽかんとする。その顔は思ったより幼くてなんだか可愛かった。
「あ、ごめん。えっと、俺、臼井健介。二十五歳です」
「どうもご丁寧に。私は木原透子です二十七です」
丁寧な挨拶に、思わず同じように返してしまう。
「あの、お礼って言ったらアレですけど、良かったら飯食いに行きませんか。俺まだ引っ越してきたばっかなんで店知らなくて。奢るんで良い店教えてください」
臼井君は秋晴れのようにピカピカの笑顔で私を見ていた。どうしようかなあ。別に悪い人ではなさそうだけど。まあでもいいか。天気はからりと晴れているし、気分もいい。長らく彼氏もいないし、今日の予定も無し。であれば、隣人の若い男の子に親切にすることだってあるだろう。
「わかった。それじゃあ十一時くらいにアパートの前でいいかな?」
「はい! よろしくお願いします!」
臼井君は笑顔で頷いて部屋に戻っていった。私も準備をしよう。
約束の時間に部屋を出ると、既に彼は待っていた。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「全然! 俺も今来たとこなんで」
先程はジャージだった臼井君は襟付きのジャケットに白いシャツとジーパンという若者っぽく、かつおしゃれな格好になっていた。背が高いのでカジュアルでもちゃんとした雰囲気の格好がよく似合う。
「……透子さん、めっちゃ可愛いですね」
「そう?」
私はカーディガンにシャツにレギンス、ぺたんこパンプスの動きやすさ重視の服装だ。
「普通じゃない? というか、ナチュラルに名前読んだね。遊び慣れてる?」
「そ、そんなんじゃないです! すみません。馴れ馴れしかったですか?」
臼井君は顔を赤くして否定する。そんなにムキにならなくても。
「別にいいけど」
そう言うと、彼はホッとしたように顔をくしゃっとして笑った。
「初対面でこういうこと言うとナンパっぽいですけど、そうではなく。木原さんと一緒にいると気が緩んじゃって……つい」
「ふうん。いいよ、名前で呼んで。確かに私も臼井君といると落ち着くかも。弟に似てる? そんなことない?」
私の弟はこんなに大きくないしなあ。しかし臼井君は眉を下げてしまった。
「弟⁉ そっか……この微妙な年の差が男として認識されないのか……」
なんだかブツブツ言っているけど、感情が豊かでなんだか大きな犬みたいでかわいかった。せっかくだからお姉さんがおいしいお店に連れて行ってあげよう!
「俺! 頑張るんで!」
「うん。頑張ってね!」
いきなり宣言されたので取りあえず応援すると、臼井君は「思ってたのと違う」と、またしょんぼりしてしまった。




