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d|IF|fer Affection  作者: 江川無名
 
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第二十八話 想いと形

―― Haruki side ――




 記憶なんてない。何一つ記憶なんてない。現実の記憶も――そもそも、何処が現実? この世界だって現実なのに、元いた世界だけしか現実と呼ばない自分は何なのだろうか? 


「おーい。何ぼーっとして考え事してるの? ちゃんと3人……というか4人? を見守っていないと」

「特に何も考えてないって。……本当だから!!」


 ジト目で俺の目をみるリアに声を荒げて反論する。実際、ぼーっとしてはいたが――それは封じられた記憶を拾い上げる作業でしかない。作業と考え事はイコールで結びつきはしない。


「それよりもさ。……リアはなんで焦ってるの?」

「焦ってる? 私が?」

「焦ってるだろ? ニアを早く一人立ちさせたいと願って、無理矢理成長させようとしている」


 リアは口を噤み、空を見上げる。雨を知らない美しい青空が彼女の顔を明るく灯した。暫くしてリアは静かに頷いた後、ニア達に視線を移す。


「私はハルキに隠し事をする気はないけど。ううん、するべきではない……の方が正解。貴方達に隠し事をすることは未来に繋がらないから。本当は最初に言うつもりだったのだけど、ニアに聞こえてしまうかもって思ってね。私は――もうすぐこの世界からいなくなる。ただそれだけよ」

「…………死ぬのか?」

「――そうね。正直、大体わかっていたでしょ?」

「それに関しては発言を控えてもいい?」

「構わないわ」

「でも、そっちは意外と焦ってない、というか落ち着いているんだな」

「一年程前から覚悟は決まっていたもの」


 楽しそう――と言えるかは不明だが、少なくとも悪い時間を過ごしていなそうな表情を零すニアを見つめながら、リアは愁いを帯びた表情を浮かべた。


「この都市(まち)から離れた理由は前も言ったけれど、無意味だった。人は一人では生きていけない。孤独は誰も得をしない。――たとえ、離れ離れになったとしてもいつか会える誰かと糸を結ぶことが大事。――()()()()()誰かと」


 生きている誰か――その言葉は重く痛く心に突き刺さったが、何故か何処か温かさを感じた。


「…………そうすれば、いつかすべてがなくなっても繋がりは潰えない。きっとね」


 眺める景色は憧憬で、視える空は群青だった。翳ることを知らなそうな空を見て、「この世界で雨を見た記憶がないな」と、俺はふと思う。食料などはどうしているのだろう。

 そんなどうでもいいことまで考え始める。おそらくこの空気が苦手で、意識を別のところに向けたかったのだろう。

 それはリアも同じだったのだろう。一度大きな声を出して両手を一回叩く。


「辛気臭い空気は嫌いなのよね!! 何か面白い話でもしましょうよ!!」

「……あの飴が全て同じ――」

「次言ったら、マジで首絞めて吊るしあげて叩いて殴って気絶させるから気をつけなさい」

「執念深すぎる!! ……でも、同じ味だって今まで知らなかったの面白すぎて――」

「ホントにゆるさない。ゆるさないゆるさないゆるさない――」


「それはどっちに言ってます?」

「どっちもよ!! はあ……何回も繰り返すハルキには分からせる必要があるようね」

「え、何? 勝負する? 言っとくけど今度は負けないからな?」


 俺は拳を握り、何度かリアの体には当たらない程度にパンチを繰り返す。しかし、彼女はその手を抑えてむすっとした表情を浮かべる。


「今あの場所に行ったら、ニアの事をちゃんと見守れないじゃない。だから、うーんと……今度はトランプで勝負する?」


「んー。俺マスターバインドってやつやりたいかも」

「はあ、何それ?」

「隠された四つのピンの色を推理するゲーム。対人だと相手が選んだピンの色を推理するって感じかな? あとは順番が決まっていて、位置が同じだったらヒット。位置は違うけど色は同じだったら、ブローって答える。例えば、一ヒット二ブロー、みたいな感じ。どう? やる?」

「私はトランプがやりたい」


「それは悪かった!! 説明に時間を使いホント申し訳ない!!」


「冗談よ。でも、ピンなんてないわよ?」

「こういう時は数字で代用するんだよ。紙とペンは俺が持ってるから。ああ、後四つの数字は流石に面倒くさいし、三つにしよう」

「おっけー」

「それと全部違う数字にすること。当然だけど、一ヒットが三ヒットみたいな意味わからん事発生するから」

 

 リアが無言で首肯するのを確認した後、俺はポケットから紙を取り出して半分にちぎる。ペンは一本しかもっていなかったため、先に自分の数値だけ書いておき、リアにまとめて手渡す。


「よし、書けたわよ」

「本当はじゃんけんとかで先攻後攻が決めるべきだろうけど、今回はそっちからでいいよ。基本、先攻有利だと思うし」

「じゃあ、言葉に甘えさえてもらうわ。――取り合えず、何か順番に三つの数字を言えばいいのね。じゃあ、ろくいちよんでどうかしら?」

「……すぅ」

「え?」

「三ブローだよ!!――いや、こっからだから。何その誇らしげな顔!! というか、なんか憐れんでない!?」

「さあ、どうかしらね。それよりもはやく」

「あああああ!! もう、よんろくはち!!」

「ゼロ」

「おわった……」


 俺は露骨に落胆し、右手に持っていた紙を握りつぶす。リアは余裕綽々とした表情で次にいう数字を考えていた。


「――なんとなくだけれど、よんろくいち、でどうかしら?」

「…………三ヒット」

「やった!! 一瞬で私の勝ちね!!」

「……………………すぅ」

「何か言いたげね。ほら、言ってみなさい、ほらほら」

「見え透いたオチ!! でも悔しさが残って、はい勝って良かったですね勝敗決っしましたね。とか素直に言えない!!」

「長い言い訳ねー」


 もうすぐリアが死んでしまうことなんて、今の俺は微塵も意識の中になかった。

 そもそも出会って一週間も経っていないのに、完全に情を移すというのは無理な話だろう。――いや、一週間という時間は人にとっては、途轍もなく長い時間かもしれない。


 

 だったら俺は――案外、冷たい人間なのだろうか。



 空、大地、森――世界が浮かべる感情とは正反対の感情を抱いているような気がした。




◇◆◇

―― Titia side ――



「じーっ」

「な……何を見ているの?」

「変な石を見つけた」


 ニアは土の中に埋もれた少し大きな石を拾い上げ、ユリアに手渡す。


「星型の石……何これ!? こっちから見たらハート型に見える!! しかもこっちから見たらダイヤ型!!」


 何とも形容し難く、世にも珍しい石を見て、ユリアは彼女に似つかわしくない――しかし、年相応ともとれる反応を示す。しばらくして、自分がどのような態度を周囲にさらしていたのかに気が付き、ニアに石を返して咳払いをする。


「――ごめんなさい、取り乱して」

「初めて」

「ん? 何が?」

「なんでも……ない。すこし、面白いからリア達に見せてくる」

「本当に仲がよろしいですね」

「ニアは、ずっとリアの隣にいるってそう決めているから」

「……素敵な姉妹愛ですね」


「違う。……これはただの――。ううん、何でもない。ユリアも一緒に行こう?」

「え……う、うん!!」


 ユリアはニアに手を引かれ、流されるようにリア達の方へと駆けていった。

 ティシアとルイはぽつんと二人で取り残されて、周囲の子ども達の声だけが二人を包む。暫くして、遠くから面白可笑しく語らう四人の声がティシア達の耳に入ってくる。


「あはは。私達は取り残されてしまいましたね」

「……本当だね」

「でも、それがきっと正しいことなのかもしれませんね」


 ティシアは全てに対しての現状況に肯定も否定もしていないが、少なくとも間違ってはいない、と信じたいと願っていた。

 その思いがぼそりと漏れて、隣にいたルイに半目でみられてしまう。


「それはティシアだけでしょ? 記憶に関することは、僕には――関係ないよ」

「……本当は誰にも関係してはならないんですけれど……ね」


 ティシアは愁いに帯びた表情で、あまりにも綺麗すぎる青空を仰いだ。理解しているものの神経を逆撫でするような、ふざけた空だった。


照らせ(エクレウール)

「何をしてるんですか?」

「これがユリアが初めて覚えた魔法。――それとティシアの不安を緩和するために使った」

「おかしなことをしますね」


 おかしな行動ではあったが、ティシアの愁いに帯びた表情を淑やかな笑みに変えるには充分だった。

 彼女は一頻り小さく笑った後、もう一度空を見上げる。その表情は靉靆としたものではなく、柔らかく穏やかなものだった。



「もうすぐアレクさんが帰ってきますね。何も変化が起きなければいいのですが」

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