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第6話 爪砕き嘶く

 


「あぐッ……」


 強化衣越しであるにも関わらず、先程受けた衝撃はそれを貫通する程に強く、腹部が焼けるように痛い。


 そうこうしているうちに七草は、腰元付いているホルスターから電撃ではない実弾の籠もった拳銃を抜き放ち、こちらに向けて躊躇なく発泡してくる。


 それを僕は倒れ伏した状態から横へと転がることで、それをギリギリのところで回避する。


 そして透かさず体勢を立て直し、お返しと言わんばかりに電撃をお見舞いする。


 だが、それを七草は身体を傾け最低限の動きだけで回避し、次の瞬間には七草の身体が僕の目の前にまで迫っていた。


 あまりにも急な接近であったため、僕はろくな受け身を取ることも出来ずに再び腹部に拳を叩き込まれるが、先程同様の技を食らっていたため何とか対応することができ、七草の腕を掴むことに成功する。


 そして、殴られた衝撃を利用して弧を描きなから七草の顔面に拳を叩き込もうとするも、顔を逸らすことで避けられ、反撃として蹴りをお見舞いされたことで再び防壁まで吹き飛ばされる。


 何とか身体を起こして立ち上がるが、依然として状況は悪いままだ。

 まるで歯が立たない。七草を相手にして、今の僕では勝ち目がない。


 直に他の軍兵も駆け付けてくるだろう。だから、ここは逃げることが先決だ。


 でも、どうやって?

 おそらく、逃げるだけでも至難を極めるだろう。


 だが、このまま戦い続けるだけであればジリ貧だ。こちらは強化衣のお陰で何とか攻撃を耐えることができている状態のため、それが破壊されしまえばお終いだ。


 ならば、僕が切れる手段は一つしかない。


「能力――」


 そう唱え、意識を内側へ向けて集中し、闇の中に沈んでいる能力の感覚を手繰り寄せる。


 そして――


「……ッ。ぐっ、ぁあ」


 脳を内側から鈍器で叩かれたような激しい頭痛が僕を襲い、思わず声が漏れる。


 そして、自分が塗り潰されていくかの様な感覚に陥りつつも、僕は妙な一体感と共に闇の中にある光明へと手を伸ばす。


 すると、一瞬ではあるが膨大な感覚が僕の身体を駆け巡り、思わず地面に膝を着ける。


 その隙を逃さなかった七草が僕の下へと信じられないような速度で突撃してくる。


 だが、僕にはそれが分かっていた。

 その後、七草がどんな行動に出るかも含めて、全てが自分のことであるかのようにはっきりと分かったのだ。


 僕の瞳が青白い輝きを灯す。


 そして、七草は膝を着けた状態の僕の身体を宙へ向かって蹴り上げ、跳躍してから狙いを定め、地面へ向けて踵落としを打ち込んでくる。


 だが、来ると分かっている攻撃に対応できないほど僕もヤワではない。


 空中で身体をひねることで攻撃が命中する場所を逸らし、野次馬となった群衆の方向へと吹き飛ばされるよう向きを調整する。


 慌てて人々がその場から逃げようとするも、落ちる僕の方が早く、人々をクッションにすることで衝撃を殺す。


 少しばかり心が痛んだが、生き残るためであるため致し方あるまい。


 そして、()()()()に僕は直ぐさま群衆の中へと紛れ込み、追いかけようとする七草を他所に、人混みに流されてこの場を後にする。




 –––––




 一先ずは上手く作戦に成功したことに内心安堵しつつ、いつの間にか日が沈み、すっかり夜となった街の中を淡々と歩く。


 だが、夜とはいえ流石は商業区。

 先程までと比べれば人混みも減ったとはいえ、依然として往来する人々は後を立たない。


 そして、煌々と輝く街灯や、ビルにある窓という窓から溢れ出す灯影によって街は昼間とも変わらないであろう程明るく見える。


 そんな街の中で、僕は一つの目的地を目指して歩いている。


 そこは、旧市街区とも呼ばれる廃棄された戦時用の前線防衛区だ。


 だが、戦時用の前線防衛区などと言えば聞こえは良いが、その実情はこの都市ではまかないきれない程増えた人口を戦火に晒すことで間引くための処理場だ。


 一応は都市全体を落とされては困るということで、ある程度の戦力を用意していたらしいが、そのほとんどが使い捨ての能力者であったらしい。


 だが、それも昔の話。


 戦後、第四の市街区として再利用しようとして途中で計画が頓挫して放棄されたという歴史があるが、それでも今尚街としての形を残しており、身寄りのない者が住み着いていたり、テロ組織の根城となっていたりと無法地帯と化しているが、政府からは必要悪として見逃されている。


 そのため、能力者達の最後の安息の地となっている。

 今から僕はそこへ向かい、協力者を探そうと思う。


 そうして、人に賑わう繁華街を後にし、商業区の端にある後ろ暗い商売をしている様な者達の巣窟を抜けて更に先へ。最端にある崩れかかった防壁の下に辿り着く。


 入口には関所があるものの、既にそこに人は存在せず、設備も荒廃してしまっている。


 さながら地獄へと誘う門の様にも見える崩れかかった関門を抜けて、僕は旧市街区へと足を踏み入れた。



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