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第1話 朝日が落ちた日

 



 無機質な冷たい牢獄。一言で表すならそれだ。

 白い布団と枕に小さな白い机、そして部屋の中を照らす照明。

 壁と天井を含め、全てが白で統一されており、見る者に少しばかりの異様さを感じさせる。


 だが、そこに拍車をかけるのは鉄格子や仕切りなど一切ないトイレ。窓すら見当たらない。

 極めつけは四畳半程しかない部屋であるにも関わらず、4台も設置されている監視カメラ。


 そして、檻の向こうには実銃を携え、完全防備の体制で常にこちらへ睨みを利かせている軍兵が一人。


 どう考えても普通の部屋などではなく、まごうこと無き牢獄である。それもとびきり厳重な。


 そんな場所で日々を送るのが僕――春岐謳歌(はるきおうか)だ。




 –––––




「はぁ」


 ヂヂッと点滅する照明を見上げ、何度目になるかも分からないため息を付く。

 いつまでこんな暮らしが続くのだろう。


 ふと今思ったことを外にいる軍兵に尋ねてみる。


「兵隊さん。僕はいつまでここにいればいいんですか?」


「あ?……あぁ、後五日だ」


 一瞬、軍兵の目つきが鋭くなるも大した内容でもないと判断したのか直ぐにいつものふてぶてしい顔に戻る。


「え、五日?」


 そして、当然答えが返って来るとも思っていなかった質問に答えが返って来たことにも驚いたが、それ以上にその答えに驚愕する。


「外に出れるってことですか?」


「んなわけあるか。今お前がいる特別房から雑居房に移動するだけだ」


 少しではあるが期待をしてしまっただけに若干気分が下がる。だが、ようやく自分以外の人と関われるようになるのは嬉しい。


「だいたいお前のような能力者共を外に出すわけないだろう。どれだけ民間に被害が出ると思ってんだ?何より今世間を騒がしている能力者のテロ組織がいい例だ。百害あって一利もねぇよ。大人しく戦争の道具にでもなっとけ」


「……」


 他人に関われることに喜びを見出していたら、酷い水を差された。尋常じゃなく気落ちする。


 だが、何もこの軍兵が特別間違ったことを言っているわけではない。世間一般ではこれが普通の考えだ。


 2000年初期に蔓延した疫病により、人類の76%が死滅。

 その疫病に適応し、超常の力を得た人々が新人類――能力者として生まれ変わってから早3000年。


 能力者の数は時が経つに連れて瞬く間に減っていった。

 だが、現在――西暦5237年においても能力者の力は健在であり、協力な者であれば一人で一個師団にも匹敵すると言われている。


 第九次世界大戦が起こる可能性が現実味を帯びてきた現在、そんな人材を政府がみすみす野放するわけがない。

 むしろ、政府が今一番力を注いでいることだろう。


 そのため、能力者は完全にランダムで様々な親の元に生まれてくるため、発見され次第捕縛。そして、今の僕と同じように収容所に監禁される。


 その後は、実験の材料にされたり、先程軍兵が言っていたように戦争の道具として戦場の矢面に立たされ、使い潰されるかのどちらかだ。


 そんなわけで、能力者達は大変過酷な環境にいる。

 野放しにしておけば危険であるということも理解は出来るし、都合良く管理しておきたいというのも分かる。


 でも、いくらなんでも能力者に対する扱いが酷すぎないだろうか。テロなんかが相次いで起こるのにも納得だ。


 正直全く明るい未来が見えない。


 そんなことを考えながら僕はいそいそと布団に入り、就寝の準備をする。

 そして、ゆっくりと瞼が落ち、僕は微睡みのなかへと旅立った。




 –––––



 暗い空間。手や足などの感覚がなく、ただ宙へと投げ出されたような場所に僕はいる。


 はて、僕は何をしていたのだろう。

 答えを求めてもその疑問に応える者はいない。


 そして当て所無く宙を彷徨っていると、ふいに光が差し込んでくる。


「謳歌……? こんな所で何してるの?」


 ウィーンと自動ドアが開く音と共に僕を呼ぶ声がし、急速に僕の意識は覚醒する。


「あ、えぇっと」


「ここ、物置部屋だよ? それに電気もつけてないみたいだし……」


 そして、声がかけられた方を見上げれば、こちらに向かって困ったようにはにかむ少女――旭立緋彩(ひだちひいろ)がいた。


「ほら、お母さんが呼んでたよ。晩ごはんだって」


 彼女はそう言いながらこちらへ手を差し伸べ、崩れかかった本の山の中にいた僕を引き起こそうとしてくれた。

 丁度そのときに、彼女の胸程まである透き通るような黒髪が僕の頬をくすぐり、それが妙にドキドキした。


 そうした一連の動作を終え、ダイニングルームへ向かうと、僕ら二人を除いて既に家族全員が席についており、僕らが入ってきたのを確認した義兄が声をかけてきた。


「あ、謳歌。お前どこにいたんだ?」


「ちょっと物置部屋に用があって」


「物置部屋?なんでまたそんなところに……」


「はいはい。二人とも、せっかくの食事が冷めてしまうよ。謳歌と緋彩は立ってないで早く席に着きなさい」


 そんな風に僕の義兄――旭立日々百(ひだちひびと)と会話をしていると、横から義父に窘められてしまう。


「はい、すみません。お義父さん」


「いやいや、構わないよ。さて、いただくとしよう」


 そうして、皆で頂きますと口にしてから食事を始める。


「所で謳歌、どうかね?君が家に来てから今日で5年目になるわけだが、何か不都合があったりしないかい?」


「いえ、そんなことは。それよりも助けていただいたことに感謝しています」


「そうか、それならいいんだが」


「謳歌、別に何か遠慮していることがあったら好きにいってくれて構わないのよ?」


「ありがとうございます、お義母さん。でも、本当に大丈夫です」


 義父母が心配をしてくれるが、この家に来てから困ったことなどない。寧ろ、生活水準の差から昔と比べて色々と満ち足り過ぎているくらいだ。


 それよりも、5年……か。もうそんなに経つのか。


 僕は元々この家にいたわけではなく、5年前までは実の父と母のもとで暮らしていた。


 だが、当時僕がまだ11歳だったある日――父と母は戦争に行ったきり帰ってくることはなかった。


 父と母は共に軍人であり、周りの大人達は隠していたものの僕は子供ながらに両親が死んでしまったのだと理解していた。


 それからは流れるように事が進み、僕の遠い親戚でもあり、両親に大恩があるとされる磯城島帝国が誇る財閥の一角――旭立家の養子となることが決まった。


 引き取られることが決まって以来、僕は自分が能力者であるということもあり――旭立家の権力によって政府に能力者であるということを隠してもらっている状態であると言えども――旭立の者からは蔑まれるのではないかと気が気でなかった。


 だが、蓋を開けてみるとそれは杞憂であった。

 なんと、旭立の息子とその1歳年下の妹も僕と同じく能力者であり、その二人――日々百と緋彩は驚く程早く仲良くなることが出来た。


 そして、緋彩とは同い年ということもあり、二人で過ごすことも多く、僕は時が経つにつれて段々と緋彩に惹かれていくようになった。


 そして、そんなこんなで現在へと至るわけだ。


 そんな風に僕が回想に耽っていると、不意にインターホンの音が鳴る。


「私が対応しよう」


 そう言って義父が玄関へと向かうが、どういうわけか猛烈に嫌な予感がする。既視感と言ってもいいかもしれない。


 今、義父を止めなければ大変なことになる。僕はそう直感し、声を掛けようとするも、義父はすでに玄関の扉のロック機能を解除してしまった後であり手遅れであった。


「義父さん待っ……」


「旭立の者を全員捕らえろ!掛かれッ!」


 僕の声に被せるように野太い男の声がし、その声が聞こえるやいなや玄関からは黒い防護服を纏った軍人がわらわらと侵入してきた。


 そして、侵入してきた軍人達に義父は瞬く間に押し倒され、手には手錠をはめられる。


 僕らが呆気にられれていると次はお前達だと言わんばかりに先程大声で叫んでいた男がこちらを睨みつけてくる。


「貴様ら一家には全員確保指令状が出ている。大人しく降伏したまえ」


「逮捕状……?どうしてそんなものが」


「分からないのか?だが、貴様らの確保は我ら磯城島国にとって最優先事項ッ!娘以外は確保が難しければ、殺すこともやむを得ないとまでの指令が出ている。よって大人しく降伏することを進める」


「殺すことも止む無しだって?ふざけるんじゃ……」


 日々百がそう言い終わったのかも定かではないタイミングで、再び男が他の軍人に向かって命令する。


「事態は一刻を争う。全員捕らえろッ!」


 その声に反応し、後ろで控えていた軍人達が一斉にこちらへ駆けてくる。


「日々百、能力を使って二人と一緒に逃げなさい。それまでの時間は私が稼ぐわ」


「お母さん……? 何を言ってるの?」


 緋彩が事態を飲み込めず、困惑しながらそう言うも、既に義母の顔は悲壮感に彩られつつも覚悟が決まっているように見えた。


「殺しもやむを得ないって言うぐらいだもの。大人しく捕まっても碌な目に合わないわ」


「でも……」


「けれどね、このままここに残れば私達全員が捕まる。そうしたらどんな目に合うかも分からないわ。だなら、私がここに残って時間を稼ぐ。その間に貴方達が逃げてちょうだい。幸い、この家にはあの人達を止めるだけの機能が備わってるもの」


「嫌だよ……お母さんをここに置いていくなんて」


「緋彩、ごめんなさいね。親として最後くらいは子供を守らなくちゃ。さぁ日々百、二人を頼んだわよ」


 もう残る時間も少ない。今が決断のときだ。

 そして、徐に日々百が動き出す。


「クソッ……ごめん、母さん。能力発動――」



 能力――【時針操作】




はじめまして。この度は本作品をお読みいただきありがとうございます。


さて、本作品における世界観の補足ではありますが、作中で語る程のものではないと判断したので、この場を借りて披露させていただこうと思います。


本作品の舞台は西暦5237年ではありますが、戦争次ぐ戦争で文明は何度も崩壊の危機に瀕しており、その度に科学技術などの大半をロストしているため規模的な技術力に関しては現代と比べても一本リードしている程度のものでしかありません。ですが、稀にオーバーテクノロジーとして過去の遺産が出てくることもあるかもしれません。

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