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憲章の批准

 最後の懸案事項は、ルシタニアが強硬に提案する選挙の廃止についてである。ほとんどゲルマニアだけに関わる問題だが、ゲルマニアは拒否権を認められた四大国の一つであり、無視出来るものではない。


「国王陛下、何故にそこまで選挙というものを否定するのか、お教え願いたい」


 リッベントロップ外務大臣はルシタニア国王ルイ=アルマンに問う。


「選挙で選ばれただけで何の能力もない政治家が政治を行い、更にはそれが選挙の度にすげ替えられるなど、そのような国を信用することは出来ぬ。全ての民主主義はこの世界から根絶されるべきなのだ!」


 国を民主主義者に乗っ取られた経験から、国王は個人的に民主主義を嫌悪していた。とは言え感情だけで捲し立てることもなく、明確な論理を持って民主主義を根底から否定する。


「……恐れながら、かつての我が国はそのような信義のない国であったかもしれませんが、ヒンケル総統が政権を得て以来、そのような過渡的な段階は既に克服されました。事実、我が総統が政権を握って以来何度か選挙が行われておりますが、政権交代の兆しすら見えません」


 かつてのゲルマニアは選挙の度に与党が変わる不安定な国であったが、社会革命党が政権を握って以来、選挙制度は与党が極めて有利なような改良され、政権交代などあり得そうもない。


「では、選挙を廃止すればよかろう。何の意味もないのであれば、わざわざ危険な要素を残しておく必要もあるまい」

「選挙は安全装置なのです。今の指導者層が世を去った後、社会革命党がもしも堕落し悪政を行うのであれば、その時には選挙によって政権は追放されることでしょう」


 政権側が有利なだけで、決して敗北があり得ない訳ではない。臣民が総出で社会革命党を否定すれば、その時初めて政権交代が起こるであろう。


「なるほど。確かに、余程の暗君が現れれば廃されるのは、我が国でも同じだな」

「ご理解頂けましたでしょうか」

「ああ。ゲルマニアのようにそうそう政治に影響を与えないような選挙制度ならば、容認しよう。そのように枢軸国憲章を書き換えるのならば、それでよい」

「ありがとうございます」


 ルシタニア王国が承諾してくれたことで、枢軸国憲章はいよいよ完成を見つつある。そうして数日後。


「――枢軸国憲章は、皆様からの案を受け、このように相成りました。どうぞご確認を」


 各国の意見を踏まえた枢軸国憲章草案が各国に配布された。可能な限り全ての要望を取り入れた最終案である。


「――ご確認頂けましたでしょうか? では、枢軸国憲章を採択することに賛成の方は、ご起立願います」


 片倉源十郎が呼びかけると、諸国の代表団はぞろぞろと立ち上がった。四大国を初めとする圧倒的大多数が枢軸国憲章の採択に賛意を示したのである。


「ありがとうございます。それでは、枢軸国憲章は本総会を以て採択され、以後枢軸国を運営する指針とさせて頂きます」


 大きな拍手が議場を満たした。全ての国を等しく律する世界初の国際規範が誕生したのである。今後は枢軸国憲章に則って枢軸国総会が運営され、国際問題は憲章に則って解決されるだろう。


「枢軸国憲章の採択は、枢軸国総会における採択の第一号と相成りました。続いて、大八洲より発議がございます」


 源十郎はあくまで司会ということで、大八洲の意思を示すのは晴政である。


「うむ。枢軸国憲章の採択、実にめでたいことである。これにて真に枢軸国総会が始まったと言ってもよいだろう。しかるに我らは、現下の全ての戦争状態を終わらせる講和条約の締結をここに発議する。また同じことで悪いが、草案に目を通してくれ」


 実質的な戦闘状態は既に終息し、枢軸国総会すら開催されている者の、各国は正式な講和条約に調印した訳ではない。戦後の平和を暫くは保証してくれるであろう枢軸国が結成された今こそ、名実共に戦争を終わらせる時である。


 晴政が配布した条約案は、既に主要国間で合意を得たものである。こちらは各国語に翻訳された文書が用意されていた。源十郎は諸国に異論があるか尋ねたが、とっくに知って内容に合意を得ている以上、今更反対がある訳もなかった。


「――なれば、講和条約は皆様の賛同を得たものと見なさせて頂きます。そしてこれより、講和条約への調印式を執り行います」


 既に内定していた条約に、正式な署名を加えるだけの作業である。


「これを以て、この大戦は終わりを迎えた! これよりは太平の世である!」


 晴政は高らかに宣言した。後世に近江の和議と呼ばれる講和条約が締結され、全ての戦争状態は終結した。未だ政情不安定な地域における内乱がなくなった訳ではないが、国と国との戦争は今、この地上から一時的に消え去ったのだ。


 が、その時であった。陽公シモンが顔を青くして皆に問いかけた。


「皆、聞いて欲しい! 我が国の北部が何者かの攻撃を受けている! これは一体何事か!」

「何だと? 源十郎、何か知ってるか?」

「いえ。寝耳に水です」


 予想外の急報。世界の雲行きはいきなり怪しくなり始めた。


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