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枢軸国憲章Ⅱ

 会議は徐々に、枢軸国憲章草案に対する意見や批判を言い合う雰囲気になってきた。各国の権利は平等であると宣言されているとは言え、やはり強い発言力を持つのは列強である。取り分け嫌々ながら枢軸国に参加しているヴェステンラントは、精力的に憲章を批判していた。


 ヴェステンラントの代表としてここを訪れたのは、和平派の陽公シモンと白公クロエである。ヴェステンラント随一の頭脳を持つ赤公オーギュスタンは、枢軸国総会に参加するのを自ら拒否していた。


「まずは民族自決の条項について文句を言うのでいいのだったな?」

「はい。我が国に最も大きな影響を与えるのがこの条項ですから。シモン、よろしくお願いします」

「任された。えー、ヴェステンラントから意見を述べさせてもらいたい!」


 会議の進行はなかなか原始的なもので、発言したい者は大声を張り上げるしかその意思を伝達する手段はなかった。これを改善すべきであることには、恐らく全ての加盟国が賛成してくれるだろう。


「シモン様、どうぞ」


 司会進行役を担う片倉源十郎に発言の許可を得て、シモンは話し出す。女王ニナの次に合州国の代表に相応しいのは彼である。


「言うまでもないとは思うが、第三条、民族自決を定めた条項について、我々から物申させてもらいたい」

「どうぞ。いかなる論であれ全て等しく尊重されるのが枢軸国総会です」

「うむ。えー、この条項は余りにも急進的だ。確かに、全ての民族に自らの国を建てる権利があるという思想は、素晴らしいものだ。だが、現実には秩序というものがある。この世界は今まで、力のない民族は強い民族に従属すべきという考えでやってきた。それは間違っているかもしれないが、それをいきなり破壊することは、計り知れない損害を全ての民族にもたらすだろう。この条項については、修正を求める」


 国内に未だ多い先住民を独立させたくないというのがヴェステンラントの本音であるが、シモンの建前もそれなりに正当なものであった。力のない民族の吸収、帝国主義が当然のものとして受け入れられてきた世界にいきなり民族自決を持ち出すことは、確かに大きな混乱を招くこと間違いない。


 会議の流れとしては、一先ず各国の懸念を集計して、その後それぞれの条項について議論することとなった。民族自決の条項について他に文句がなければ、他の条項についての文句が集められる。


 さて、次に条項を根本的に否定する意見を出したのは、ガラティアであった。


「――皇帝陛下、お話ください」


 ガラティアは皇帝アリスカンダルが自ら参加していた。相変わらず自由な君主である。


「うむ。第五条、各国に軍縮を求める条項だが、我々はこれは受け入れられん。軍備を自由に持つ権利は全ての国に保証されるべきもの。仮に列国の間で軍備の増強が連鎖し、人民に悪影響を及ぼすのであれば、列国が勝手に軍縮条約でも何でも結ぶであろう。つまりは、枢軸国憲章にこれを含める必要はなく、そうすべきではないということだ」


 軍備拡張競争が激化すれば自ずと軍縮条約が結ばれる筈であり、あえて枢軸国憲章をそれを含める必要はない。また枢軸国憲章によって軍縮を強制されるのは国家の権利の侵害であると、アリスカンダルは主張した。この条項は有名無実だと考えるリッベントロップ外務大臣とは気が合わなさそうである。


 続いて意見を出したのはルシタニアであった。


「国王陛下、どうぞ」

「我が国としては、第六条、選挙の制限について修正を求める。すなわち、制限ではなく選挙の禁止を枢軸国憲章に盛り込んでもらいたいのだ」

「条項の強化、ですか」

「その通りだ」


 ルシタニアがゲルマニアと対立するような意見を出すとは、誰もが想定外であった。ゲルマニアはこの条項を有耶無耶に済ませたかったが、ルシタニアの意見が通ればそれは不可能になる。


 その論争は後に回すとして、結局、この三つの条項以外は細かな修正を求められこそすれ、基本的な方針に意義を唱える国はなかった。選挙の是非については事実上ゲルマニアだけな問題なので、民族自決と軍縮の二つが最大の争点になりそうである。


 源十郎の進行の下、まずは民族自決権を定める第三条についての論議が行われることとなった。最初に意見を述べたのはアリスカンダルである。


「――我が帝国は、民族自決権の保証を支持する。全ての民族は平等であり、独立を望むのならばその望みは叶えられるべきであるからな」


 列強の中で最も被支配民族の割合が多いガラティア帝国。この帝国が民族自決に賛意を示すのは、誰にとっても予想外であった。シモンは思わずアリスカンダルに問い質す。


「恐れながら、陛下の帝国においてガラティア人以外の民族が独立を選べば、帝国は崩壊してしまうでしょう。それをお分かりになった上でのお言葉ですか?」

「ああ、その通りだ。いずれかの民族が帝国から離脱することを望むのならば、それは私の徳が足りなかったが故のこと。その結果は甘んじて受け入れよう」


 徳のある指導者を演じるアリスカンダル。その真意は容易に推察出来るものではない。

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