表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
994/1122

枢軸国憲章

「――あらゆる国際紛争は枢軸国において解決されるべし。全ての民族は民族自決権を有し、自らの国家を持つことを望まばそれを許されるべし。全ての国家は不必要な軍備を削減し、民が為に使うべし。なかなか理想論だな」

「憲章は法律ではありません。寧ろ理想を掲げておくのが一般的なあり方かと」

「そうなのか。とは言え、それなりの意味があることは確かだ。きちんと吟味しなければな」

「ええ、もちろんです」


 ヒンケル総統とリッベントロップ外務大臣は暫く大八洲の草案を読み込んでいた。他の諸国の代表達も、一先ずは草案を頭に叩き込むので手一杯のようである。


「気になるのはやはり、民族自決の件だな。列国はほとんどが影響を受けるのではないか?」

「大八洲以外は、そうでしょうな」


 広大な植民地を持ち(本土と植民地の区別も曖昧だが)、本土にも大量の少数民族を抱えるヴェステンラント合州国。多民族国家を自称しているガラティア帝国はまず間違いなく影響を受ける。それに加えて、単一民族国家に見えるゲルマニア帝国も、スカディナウィア諸王国は異民族の領邦であると言わざるを得ない。


「これを認めれば、北欧諸邦が独立を望んだ時に拒否出来ないということだな」

「ええ、そうなるでしょう。しかし北欧など所詮、土地は貧しく人も少なく、帝国の生産量に占める割合はほんの僅かに過ぎません」

「だからと言って、我々に利益がないじゃないか」

「利益ならありますとも。これを認めることで、民族自決を認めれば国が四散するガラティアやヴェステンラントを弱体化させることが出来ます」

「皆が痛いが、我々より彼らの方が痛いということか」


 ゲルマニアは確かに多民族国家であるが、実質的にはほぼ単一民族国家と考えてよい。それに対してガラティアやヴェステンラントは完全に多民族国家であり、その独立を許せば国は崩壊するだろう。ゲルマニアは損害を被るものの、相手により大きな傷を負わせられるのである。


「つまり、我々は何かあったら民族自決権の保証に賛同すればいいんだな?」

「はい、そうなります」

「分かった。それと気になるのは、選挙制の制限か。これはどういう意図があるんだ?」


 草案の中にある選挙制を制限すべきとの条項。これは他の理想論的な文言と比べて異質である。


「選挙によって政権が決まるような国は、つまり選挙の度に国の方針がコロコロ変わるようなものです。そのような信義なき国とは関係を持てないということでしょう」

「なるほど。確かにそれはそうだな」


 政権交代の度に外交方針が変わるような得体の知れない国とは付き合えない。そういう宣言である。こんなことを盛り込んでくるとは、大八洲はエウロパの政治体制にそれなりの関心があるようだ。


「どう見ても我が国を対象としたようにしか見えないのだが」

「そうでしょうね」


 選挙制度などというものを持っているのはこの世界でゲルマニアだけだある。ほぼ有名無実と化してはいるが。


「これは……どう受け取ればいいんだ?」

「これに関しては、裏は特にないでしょう。安定した政治の構築を求めるのが、この条項の目的であると」

「つまり、社会革命党が政権を握り続けていればいいのだな?」

「はい。現下の我が国の体制において政権交代など起こりようがありません。これを民衆に譲歩しなければよろしいかと」

「なるほど。とは言え、悩むところだ。社会革命党はあくまで臣民の負託を受け、政治を行っている。私の跡を継ぐものにその能力がなければ、党は排除されなければならない」

「それは難しい問題ですな。内政の問題については、私からは余り申し上げられません」

「それも当然だな」


 リッベントロップ外務大臣はあくまで外交の専門家。枢軸国憲章の意図を読み解くことしか出来ないのである。


「――悩むところだが、要するに頻繁に政権が交代するような事態がなければよいのだろう?」

「そうですね。政権交代が起こらないというのはあり得ませんから」


 指導者が死ねば、君主が死ねば、必ず政権交代は起こる。要は政権交代の頻度の問題なのである。


「民衆の好みで政権が左右されることは許されないが、民衆の利益を守れぬ指導者ならば排除される。そういう仕組みがあればいいのだな?」

「はい。そういうことになりましょう」

「それなら作れそうだ。選挙の制限には私も賛成だし、これについては修正案を出して調整してもらえばよいな」

「承知しました」


 選挙を制限することそのものにはヒンケル総統も賛成である。後はゲルマニア国内の問題だ。


「後は、この軍縮を求める条項だな。場合によっては我々に大きな不利益となりかねないが」

「これについては、そう心配する必要はないかと。具体的な軍縮の基準については、関係各国で別途軍縮条約を結ぶことになりましょう。必要最低限の軍備など、誰も客観的に決められないのですから」

「分かった。ではこの条項には賛成しよう」


 軍縮を定める憲章が採択されたとて、その具体的な基準が示されなければ実効性はない。リッベントロップ外務大臣は気にすることはないと判断した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ