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枢軸国総会

 ACU2316 1/13 大八洲皇國 近江國 蒲生(がもう)


 連合国は正式に解散し、世界に存在する主権国家は全て枢軸国に加盟した。ゲルマニアと大八洲はこれを単なる同盟ではなく恒久的な国際組織にすべく、全加盟国を集めた総会の開催を提案し、主要国はこれを受け入れた。その場所としてはいくつかの候補があったが、最終的に晴政が今後の本拠地にする予定で建てていた蒲生城が選ばれた。広く立派で誰にも使われていない都合のいい会議場である。


 ヒンケル総統は遥々大八洲までやってきて、早速この城に入場する。大きな湖の湖畔に位置する蒲生城は小高い山の上に建設され、数十の建物に囲まれた天主は近寄る者を見下ろすようである。本丸に続く長い直線路を歩き、城門を抜けて本丸に入る。


「随分と暗いな……」

「大八洲の城は大抵こうです。訪れる者を威圧するように設計されているのです」


 リッベントロップ外務大臣がヒンケル総統に説明するのは、ある程度の規模を持った大八洲の城なら大抵が持つ仕組みである。城の中に入ると細い窓から入る陽光しか光源はなく、薄暗い廊下を歩かされる。


「これは、何の絵だ……?」

「虎の絵です。我々を睨み付けてくるのも、訪問者に威厳を示す為ですね」


 廊下を歩いて辿り着いた待合室のような空間。相変わらず薄暗い部屋はギロリと人を睨み付ける巨大な虎の絵に囲まれており、まるで屏風の中に入ってしまったかのような気すらする。


「お待たせいたしました、ゲルマニアの方々。どうぞこちらへ」

「うむ。ありがとう」


 小姓がやって来て、ヒンケル総統らを奥に案内する。暫く進んで辿り着いた大部屋は、窓も多く照明も完備されていて、真っ当な明るさをしていた。そして畳の部屋に大量の椅子と机が並べられており、既に百人を超える人々が座ったり要人の後ろに立ってりしていたが、まだまだ部屋にはゆとりがある。


「皆様は、こちらにお座り下さい」

「ご苦労」

「それでは、今暫くお待ちくださいませ」


 ヒンケル総統とリッベントロップ外務大臣は机の前の椅子に座り、その他のものは彼らの後ろに椅子を並べて座った。


「あれはヴェステンラントの代表団か?」

「そのようですね。しかし女王陛下はいらっしゃらないようです」

「そんな気はしていたよ」


 その後は1時間ほど待たされ、ようやく総会が始まろうとしていた。


「大八洲が関白、豊臣晴政様よりお言葉!」


 式次第に沿ってまずは晴政が自ら挨拶をするらしい。数百の人々を前にして、数段高い段に登る。


「えー、大八洲が関白、伊達陸奥守晴政である。万邦が刀を持たずしてここに集い、このように相語らう場を設けることが出来たは、ひとえに皆々の合力あってのこと。大八洲を代表し、感謝申し上げる。俺は、刃を交えなくてもよい天下を創りたい。枢軸国総会がそのような場になれることを庶幾するばかりである。ここでは誰もが対等だ。忌憚なく考えを述べてくれ。以上だ」


 余りにも公的な人間らしくない言葉遣いに各国の代表者は呆気にとられてしまったが、少しの間を開けると会場を拍手の音が満たした。


「相変わらずだな、伊達殿は」

「ええ。そのような彼であるからこそ、信用の置けるというものです」


 小声で話しながら見守るヒンケル総統とリッベントロップ外務大臣。とにもかくにも枢軸国総会は開会したのである。


「続きまして、大八洲の片倉源十郎様より、本総会の方針をお話頂きます」


 全く偉そうではない晴政だが、名実共に関白という本来はそうそう人前に出ない高貴な身分である。実務は彼の片腕である片倉源十郎が執り行うようだ。


「片倉とか言ったな。以前にゲルマニアに来たか?」

「はい。以前晴政様らがゲルマニアを訪ねられた時、あの方もご一緒に」

「ああ、確かに見覚えのある顔だな」


 源十郎が段に登る。そして各国の代表に向けて話し出した。


「関白殿下が直臣、片倉源十郎重綱と申します。この第一回枢軸国総会におきましては、枢軸国の総則をまず定めたいと存じます。すなわち、枢軸国各国が従わねばならない枢軸国憲章を定めるのです」


 枢軸国の理念をより具体化し示す為の憲章。枢軸国の目標をまずは定めようというのが大八洲の考えであった。


「つきましては、我らが既に草案を書き上げております。これを元に、諸邦の皆様には忌憚なく意見を交わして頂きたいと存じます」


 源十郎が合図をすると、小姓達が大量の資料を人々に配って回る。見た目は筆で書いた文字のようだが、大量に木版印刷されたもののようだ。


「この場で初めて配るとは、相当余裕がなかったのだな」

「ええ。ぶっつけ本番と言いますか、何と言べきか」


 こういう文書は事前に配布されておくべきだろう。まあこの世界でほとんど初めての国際会議。運営が拙いのは仕方あるまい。


 流石に全ての言語版の資料を用意している暇はなかったようで、配られた資料は達筆な大八洲語で書かれており、大八洲人以外でそれを完璧に読める人は僅かであった。


「……リッベントロップ外務大臣、速やかに翻訳してくれたまえ」

「はっ。直ちに」


 ヒンケル総統も口語程度の大八洲語は分かるが、きっちりとした文語になると最早読めない。リッベントロップ外務大臣は大急ぎで資料の内容をゲルマニア語に翻訳し、ヒンケル総統に手渡した。


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