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大八州とヴェステンラントの対立

 大八洲は関白・伊達陸奥守晴政が自ら交渉に臨み、ヴェステンラントも西部戦線の最高司令官である黄公ドロシアが自ら交渉に臨んでいた。しかしながら、両者の意見の隔たりは大きく、妥協というものを知らない両名の議論は平行線を辿っていた。


「どうして邁生群嶋を欲しがる? あの島々は貴様らの土地では微塵もない」

「私達が実力で手に入れた土地よ。それを認めさせるのは当然のことじゃない?」

「野蛮人め。これだから無色人種共は話にならん」

「はっ、それだけは同意見ね。有色人種なんかとマトモな話が出来るなんて、最初から思っていなかったわ」

「――晴政様、これでは話になりません。一度頭を冷やされてはいかがですか?」


 片倉源十郎は躊躇うことなく言った。


「頭を冷やすだと? 俺が悪いというのか?」

「いえ。お互いに冷静になるべきと申しあげているまでです」

「……分かった。どの道、ここにいても時間の無駄だ。ドロシア殿、暫し休憩としたいのだが、よいか?」

「ええ、構わないわ。外の美味しい空気を吸ってきたいもの」


 交渉はほとんど進展なく、時間を無為に過ごすばかりであった。晴政は自らの陣所に戻り、家臣達と話し合う。


「源十郎、どうすりゃいいんだ、これは?」

「まずは何が原因で話がこじれているのか、解き明かす必要がありましょう」

「原因? 奴らの頭がおかしいことか?」

「ヴェステンラントの方々の頭がおかしいのではなく、我々と根本的な価値観が異なることが原因でしょう」


 源十郎は双方の価値観の違いを晴政に説明する。


 すなわち、万邦共栄の王道を掲げる大八洲と、武力こそ全ての覇道を掲げるヴェステンラントとでは、根本的に発想の開始点が違うのだ。これでは議論になる訳がない。お互いの言語を翻訳することは出来ても、根本的な思想は理解し合えないのである。


 王道と覇道を掲げる限り、皇國と合州国は決して交わることはない。


「――王道と覇道、か。ではどうしろと言うのだ? 奴らを改心させるのか?」

「それも手ではありますが、覇道に頼る者を王道に改心させるは難しいかと」

「ならば、俺達が覇道を進むか?」

「はい。ヴェステンラントに王道を進む気がない以上は、我らも覇道で応えるしかありません」

「奴らに我らの武威を見せつけるというとこか?」

「その通りです」

「では、やってやろうではないか。俺達の得意技ではないか。ゲルマニアに伝えよ。シャルンホルストをこちらに持ってこいと」

「はっ」


 力を示す手っ取り早い手段は、物理的に形を持った力を見せつけることである。それは即ち、戦艦である。


 ○


 シャルンホルストは既に東亞方面におり、全速力を出せば交渉の場である琉球國に到着するのに10日ほどしかかからなかった。


「殿下、一大事にございます! ゲルマニアの戦艦と大八州の航空母艦がすぐそこにまで迫ってきております!!」


 ドロシアにシャルンホルスト接近の報が入った。


「何? まさか私達をここで殺すつもりなのかしら」

「それは考えにくいです。あくまで示威行為かと思われます」


 青公オリヴィアは冷静に。


「戦艦を見せつけるってこと?」

「はい。かなり無茶苦茶なやり方ですが、彼らの力を見せつけるには一番です」

「なるほどね。ま、せっかくだから拝見させてもらおうじゃない」


 ドロシアとオリヴィアは戦艦シャルンホルストを見たことがない。だからこそ、それを初めて見た衝撃は大きなものであった。


「へえ……ゲルマニアはこんなものを作れるのね」


 シャルンホルストは港に入り、大八洲側は好きに見物して構わないとヴェステンラント人を招き入れた。流石のドロシアも、視界を埋め尽くすような巨大な鉄の船を前にして呆気にとられてしまった。


「全長だけならイズーナ級の方が長いですが、見たものを威圧するのはこっちですね……」

「鉄の船ってだけで十分よ。それに、あんな大砲は、うちでは到底造れないわね」

「はい。ヴェステンラントの技術では、魔法を駆使しても造れないでしょうね」


 大八洲の狙い通りシャルンホルストに圧倒されたところで、会談は再開された。


「ご覧になってくれたかな、我らが枢軸国の戦艦シャルンホルストを?」

「ええ。随分と立派な船ね。感心したわ」

「群嶋をあくまでも併呑しようとするのならば、あの大砲がお前達に火を噴く。それでもよいのならば、この晴政、受けて立とう」

「私達を恫喝しているつもり?」

「ああ、そうだ。俺は本気だぞ? ここで和議が決裂すれば、我らは群嶋に攻め入る。あのシャルンホルストと、鳳翔を従えてな。浜辺から逃げようと、鳳翔から飛び立ちし爆撃機がお前達を討ち滅ぼすであろう」


 隠しも濁しもしない堂々たる脅迫。普通の交渉であれば許されざる暴挙であるが、晴政とドロシアの会談は既に交渉とは呼べないものだ。まさに覇道、砲艦外交というものである。


「和平に応じなければ攻め込むって? 随分と強気じゃない。潮仙をほとんど失っている癖に」

「潮仙から先には攻め込めぬ。何の意味もないな」

「チッ……。確かに、海を制する大八洲の方が優位であることは明白ね」


 海を挟んで戦う大八洲とヴェステンラント。ヴェステンラントは大八洲本土の目前にまで攻め込んでいるものの、戦いの主導権は海を制する大八洲が握っていた。


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