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ガラティア帝国との交渉Ⅲ

「シケリア島が必要な理由は、お聞かせ願いますか? まさか懲罰の為だけに領土を割譲させる訳ではありますまい」

「ビタリ半島は元より、地中海の要衝。これを押さえるは地中海の覇者だった」


 地中海を通じた交易の中継点として、また軍事基地として、地中海の真ん中に突き刺さったビタリ半島は非常に優れている。


「これを失うことが我が国にとって不利益であることは明確。なれど、当初はレモラ人の利便を鑑み、ビタリ半島全域の独立を承認した。しかし、レモラ人はその恩を仇で返した。であるからには、私は最早レモラ人のことなど考えぬ。我が国の海上交通の為の中継地として、シケリア島は返してもらおう」


 当初はレモラ王国を分断してしまうことに配慮して不利益を受け入れたアリスカンダルであったが、その恩は裏切られた。レモラ王国が分断されることなど意に介さないと決めている。


「陛下のお考えはごもっともかと。されど、レモラ王国はあくまで他国。ここで領土の割譲について取り決めることは、流石に出来かねます」

「だろうな。ではレモラに飛んで、またここに戻ってくるか?」

「それは分かりませんが……とにかく時間を頂きたい。返答は今少しお待ちください」

「それでもよいが、ゲルマニアを挟んでレモラと交渉するのは非効率だ。レモラの代表をここに連れてくれば、話は早いだろう」

「陛下がそれでよろしいのであれば、用意はできるかと思いますが……」

「そうしてくれ。私は無礼者より非効率の方が嫌いだ」


 レモラ王国のことはレモラ人と直接交渉するのが早い。アリスカンダルの中ではレモラ人への恨みより、とっとと事を済ませたい感情の方が勝っていた。


 ○


 翌日。シグルズが物理的に飛び、レモラ王国からガリヴァルディ首相を連れてきた。革命の英雄である彼は首相に選出され、国を率いる者になっている。


「皇帝陛下、ベニート・カミッロ・ガリヴァルディと申します。レモラ王国の首相を務めさせて頂いております」

「そうか、お前がそうなのか。私を裏切った張本人か」

「それについては……一度棚に上げましょう。陛下も、ここで恨み言をぶつけ合う気はありますまい」


 アリスカンダルもガリヴァルディも言いたいことは山ほどあるが、相手の顔を見る時間を最小限に留める為にも、心を殺して交渉に移ることとした。


「私の要求は既に聞いているかな?」

「はい。シケリア島を譲り渡せとのことですな」

「そうだ。君がこの場で承諾してくれれば、何も問題はないのだが?」

「まさか。シケリア島は我が国固有の領土。そう簡単に譲り渡す訳には参りません」

「そう言うと思ったよ。ではどうする? 条件付きならば割譲するか? それとも割譲を断固として拒否するか?」

「私には国と民を守る責務があります。シケリア島に住まう民の安全が保証されるのであれば、割譲は認めましょう」


 領土の割譲は現実的に不可避。シケリア島の住民に危害が及ぶようなことがないのならば、割譲もやむなしである。


「民の安全、か。私としても民を無意味に傷付けるつもりはないが、何が望みだ?」

「民がこれまでと変わらない暮らしを送れること、民が何も奪われないことを保証して頂きたい。また望むのであればレモラ王国に転居する自由をお与えください」

「うむ。構わんぞ。元よりシケリア島は港としてのみ価値がある。そこに住む民はついでに過ぎん」

「……左様ですか」


予想外の二つ返事に耳を疑ったガリヴァルディであったが、言質は言質である。


「で、これでよいか?」

「陛下が約定を違えることはないと信じております。民の生活が守られるのならば、シケリア島は譲り渡しましょう」

「案外話の分かる奴だ。では、講和は成立だな。下がってよい」

「はっ」


 レモラ問題は終わってみれば非常にあっさりと片付いた。かくしてゲルマニア・ガラティア間の主要な講和条件は整ったこととなった。ガリヴァルディ首相は一旦下がり、再びリッベントロップ外務大臣とアリスカンダルの交渉に戻る。シグルズもついでに臨席する。


「レモラとの交渉は成立した。彼らは私の要求を受け入れてくれたよ」

「そうですか。では、これでゲルマニアとガラティアの和平案は纏まったことになりますね」

「ああ。これはまだ非公式の合意に留めておくのだったな」

「はい。そのようにして頂ければ」

「承知した。では次に、私は大八洲と和平を結んでくればよいのかな?」

「はい。東方の諸問題については、陛下にお任せしたいと考えております。陛下は……大八洲との戦争を終わらせるおつもりはあるのですか?」

「既に欲しい領土は占領している。その支配を容認させることさえ出来れば、これ以上戦う理由はない」

「仔細は聞きません。では大八洲周辺の問題は、陛下にお任せします」

「うむ。それはよいが、君達もヴェステンラントと和平を結ばねばなるまい。それまでは待たなくていいのか?」

「ヴェステンラントとの交渉は纏まる見込みがあります。ご心配はなさらずに」

「そうか。まあ失敗したとしても戦争が続くことになるだけだ。気楽に頑張りたまえ」

「はあ……」


 かくして各国間の調整は続いていく。


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